「・・・みきちゃん、家に着いたよ?そろそろ・・・」



「・・・・・」



 一向に下を向いたまま話そうとしない彼女。仕方がないので、手を繋いだまま彼女の前にしゃがみ下から顔を覗く。



 当然彼女は驚くように退いたが、手だけは離れない。



「・・・海」



「ん?どうしたの?」



「今日・・・海の家に泊まりたいな」



「いいよ? でも、いいの?誕生日に家族と過ごさなくて」



 せっかくの誕生日だ、僕は彼女の両親にも祝ってもらいたかったので確認する。



「いいのよ、海くん。うちの希美を今日はよろしくね〜」



 何処から現れたのか僕らの隣には、エプロン姿の僕の母とみきちゃんの母が立っていた。



「え、え、え。なんでここにいるの!?」



 慌てて聞く僕と、驚いたまま口をぱくぱくさせて声を出せないでいるみきちゃん。



「え? 夕食作りすぎちゃって、お裾分けしてたのよ? てっきり私たちのことに気づいてるのかと思ってたのにね〜?」



「ね〜!」



 楽しそうにニヤニヤしながら僕らのことを眺めてくる温かい視線。もちろんその視線は僕らの手に向かっていた。



「あらあら、あなたたちようやくつき・・・」



「付き合ってないから! ただ、そう! 寒いから手を繋いでたの!」



 途端に威嚇するかのように二人に声を荒げるみきちゃん。



「ふーん、寒いからね〜。希美、今は春だしそこまで寒くないわよ〜?」



「いいの!寒いの・・・それよりも今日・・・」



「もちろんいいわよ、私は。それより」



「うちも希美ちゃんなら大歓迎よ!」



「あら、ありがとね。それじゃ、よろしくお願いします」



 嬉しそうな顔のままみきちゃんのお母さんは、家の中へと戻って行ってしまった。気付けば、僕らを繋いでいた手も自然と離れていた。