あと数分で僕たちの家に着く道まで、僕たちは歩いていたらしい。



 この間にも曲は流れ続け、既に四曲くらい聞き終えて次の曲に差し掛かる。



「な、なんで急にクラシックなの!」



 急に首をこちらに向け、目を見開く彼女。無理もない、J-popばかりだったのにいきなりクラシックになってしまったのだから。



 ランダムで再生されているため僕の意志で選んでいるわけではない。たまに集中したくなる時、僕はクラシックで心を落ち着かせるのが好きなので、プレイリストには大量のクラシック曲が入っている。



「クラシックを聴くと心が落ち着く気がして、勉強とかに集中できるんだ」



「そうなんだ。これは誰の曲なの?クラシックは全くわからなくて・・・」



「これはモーツァルトのレクイエムって曲だよ」



「あー、モーツァルトの曲なのね」



 レクイエム...ラテン語で『安息を』という意味の言葉。その名の通りモーツァルトが最後に残した曲とされている。



 きっと第三曲の冒頭の『ディエス・イレ(怒りの日)』は誰しも耳にしたことがあるほど有名。



 落ち着いた曲調から突然の抑揚が身を震わせるくらい凄まじいので、僕のお気に入りの一曲。



 その部分に差し掛かったところで、彼女の目の色が輝き始める。



「あぁ、これか! めっちゃ有名じゃん!私も帰ったらプレイリストに入れとこっと」



 彼女も気に入ってくれたらしく、自分がこの曲を作曲したわけでもないのに、自分のことのように嬉しく感じる。