昔からみきちゃんは誰にでも好かれるという言葉がよく似合う女の子だった。



 特に希美という名前が珍しく、可愛いと大人たちからも人気があったので、彼女自身もその名前が気に入っていたのだが...小学生に上がったことでそれは一変してしまう。



 小学生の時点で彼女は既に他の女の子たちにはないような美しい容姿をしていた。事件が起こったのは小学三年生の時。



 彼女の容姿に見惚れる男子が増え始め、毎日のようにクラスの男子から告白されるという非日常的なことが起きてしまった。



 小学三年生にもなれば自然と恋心が芽生えてくる年頃でもある。しかし、彼女には一切そういった感情が全くなく、ほぼクラスメイト全員を振ってしまった。



 当然興味がなければ、そのような結果になるのは必然的なのだが、それを気に食わない女子たちの彼女に対する嫌がらせが始まった。最初は些細な陰口程度の本人には直接的に攻撃をしない姑息な嫌がらせだった。



 それが徐々にエスカレートしていき、彼女の大好きな名前へのいじりへと繋がってしまう。



 所詮小学生の嫌がらせなので、今となってはなんてことないようにも感じるが、やはり当時はまだ心が出来上がる経過段階だったため、彼女の心には大きく響いてしまった...



 クラスの女子たちは面白おかしく希美という名前を『おい、君!』『君だよ、君〜』『卵の黄身』などと名前をバカにすることが増えていき、終いには彼女に振られた男子たちの報復なのか、彼らもまた面白おかしくみきちゃんのことをバカにする始末。



 そんな日々暗い顔をしている彼女をみて、クラスメイト全員殴ってやりたい衝動に駆られたが、それだけはやめてほしいと彼女に懇願されたので、僕はいつ如何なる時も離れないと密かに心に誓った。



 それ以上の嫌がらせは僕が常に隣で守っていたことでなかったのだが、彼女は大好きだった自分の名前が嫌いになってしまった。



 その時のことを思い出すだけでも、胸が刺されるように痛む。名前を呼ばれるたびに、顔を歪めたみきちゃんが脳裏をよぎる。



 言葉は時として他人を救うことがあるが、それと同時に他人を深く傷つけてしまう"凶器"なのだと僕たちは幼いながらも知ることになる。



 よく言えば、この時に言葉の大切さ怖さを学べたからこそ今の僕たちがあると思う。