「覚悟はできたんだね」



「・・・はい」



「そうか、まずは今回君が倒れた原因についてから話すよ。今回の原因はもちろん心臓への過度な負担。僕は今日君が何をしていたのかは大雑把な内容しか聞いていないから分からないのだけれど、走ったりはしたのかい?」



「いえ、走ってはいません。ただ普段よりも長い時間休まずに歩いてしまいました」



「うん、それが今回発作を起こした原因だよ。君の家から倒れた場所までは徒歩で約一時間と聞いている。それを休憩もせずに君の心臓で歩くのはやはり危険としか言いようがない」



「はい、ごめんなさい・・・」



「いや謝る必要はないよ。最近は比較的安定していたからこちらも油断していた。こちらこそ申し訳ない」



 頭を下げ始める先生を必死に僕と母さんで止めるように引き留める。



「そ、それでせ、先生。海はこれから大丈夫なんでしょうか・・・」



 僕も母さんも結局のところ、これからの僕の体のことを知りたい。痺れを切らし、ついつい口から出てしまったようだが、顔はいつになく真剣な母の様子を目の当たりにし僕も自然と手に力が入る。



「そうだね。まず、命に問題はないよ。もちろん余命宣告なんてのも当然ない。今は心臓がいつも通り安定しているからね」



 その言葉を聞き、力んでいた体からすーっと力が抜けていく。母さんも安堵したらしく、顔は若干引き攣ってはいるものの笑みが戻りつつある。



「でもね、一つだけ注意がある・・・」



 言葉に詰まっているのだろうか。頭の中でどう伝えようか悩んでいるような顔をしている先生。



「なんですか」



 なぜか、今までにないほど落ち着いている様子の自分。



「これからは三十分歩いたら必ず座って休憩を取りなさい。それと・・・絶対に走ってはいけない。もし、走るようなことがあったら、その時君の命は・・・だからここでもう絶対に走らないと誓ってくれ。僕も君を小さい頃から診ているから実の子供のように思うことが時々あるんだ。頼むから・・・約束してほしい」



 先生の目はいつになく真剣で目が潤んでいるように見えた。



「はい、約束します」



「ありがとう。それと退院は明日の朝にはできると思うから、今日はここに泊まってゆっくりしていきなさい」



「ありがとうございます」



「それじゃ、私は失礼するよ」