"コンコン"病室の扉を叩く音が聞こえてくる。



 先生が来たのは母さんが出ていった十分後くらいだった。病室の前で僕が泣いていることに気がついたのだろう。



 普通なら先生は患者が目を覚ましたらすぐに飛んでくるので、きっと気を利かせて僕をしばらくの間一人にさせてくれたのだ。おかげで涙は止まったが、目は腫れているので泣いていたのはどっちにしろバレていた。



「失礼するよ。海くん久しぶりだね。ちょっと元気そうで良かったよ」



「はい、相馬先生。お久しぶりです」



 僕が小さい頃に倒れてからずっと相馬先生にはお世話になっている。今でも半年に一回は検査のため、この病院を訪れているので先生とはかれこれ十年以上の付き合いになる。



 先生の年齢は五十四歳と僕の両親とさほど変わらないので、言ってしまえば第二の父みたいなものだ。



「半年前は中学生だったから今が少し大人びて見えるよ。成長したね」



「もう高校生ですから」



 先生と母さんはベッドの隣に置いてある椅子に腰掛けると、顔が神妙な面持ちへと変わっていく。さっきまでの和やかな会話が嘘だったかのような雰囲気に部屋が包まれる。



「さて、本題に入るよ。まだ君のお母さんにも何も話はしていないんだ。もう君も高校生だから自分の身は自分が一番理解しているはずだ。だからこの場で今の君の体の状況を親子で聞いてもらうよ。もちろん隠し事はしない。ありのままの真実を君に伝えるつもりだよ」



 緊張で口の中の水分が一気に失われていく。もしかしたら、このまま余命宣告をされるかもしれないと考えると怖くて仕方がない。



 余命宣告は今もこの世界のどこかで誰かがされているかもしれないが、生憎僕の周りでは余命宣告をされた人はいないので現実味が全く湧いてこない。



 もし、僕が今ここで余命宣告を受けたら僕は何を思うのだろうか。受け入れる?いや、まだまだしたいことがあると嘆き絶望するだろう。



 そして、隣にいる母さんと今も一人でお店を守っている父さんは、一人息子を失うという絶望に打ちひしがられるに違いない。それほど僕の死は周りにも影響を与えてしまうのだ。当然大好きな彼女たちにも。



「先生。覚悟は決めました。僕の今の状況を教えてください」



 母さんが僕の手を取り力強く握り締めてくる。僕も負けじと震えている小さな冷え切った手を握り返す。