駅前なので人が多くて少しだけうんざりするが、すれ違う人は皆傘を差して、俯きながら歩いているのでどこか安心してしまう。



 人混みは得意ではないので、極力人が多いところでは他人と目を合わせないように歩いている。



 "ドクンッ"心臓の音が雨の音を遮るかのように僕の耳へと流れ込んでくる。



 "ドクンッ"今日はやけに心臓の音がうるさい。普段の倍以上の鼓動音。



「おかしいな、最近はそこまで鳴らなかったの・・・」



 当然胸辺りに今まで感じたことがないような痛みが走り、手に持っていた傘を落としてしまう。



「はぁ、はぁ」



 徐々に息が荒くなっていくのが痛みを感じながらでもわかる。あまりの痛さにその場に立っていることができず膝をついてしまう。



 膝が濡れた地面に触れ、じんわりと湿っていく。



 周囲を歩いていた人々が不思議がって僕を見ているのを感じるが、今はそれどころではない。



「だ、誰か・・・救急・・車」



 苦し紛れに発した言葉。誰にも届くことなく、うつ伏せの状態で地面に倒れていく。



「だい・・・誰か・・・! 救急車を・・・早く呼んでくれ!」



 ずっと遠くの方で誰かが大声で叫んでいる声が聞こえるが、僕の耳には雨の静かな音しか聞こえなかった。意識が遠のいていく...僕はこのまま死ぬのだろうか。それだけは嫌だ。



 僕の願いが通じるわけもなく、僕の視界は暗闇に侵食されていった。光の差すことがない完全なる闇へと。



 雨が一人の男の子の背中を無慈悲に打ち続けていく。まるで空が彼のことを憐れむかのように、雨が涙を模倣していた。