「海〜?起きないの? 今日はみきちゃんの誕生日プレゼントを買いに行くんじゃないの?」



「あぁ、あれ母さん。今から準備していくよ」



 今日は土曜日。一人でみきちゃんの誕生日プレゼントを買いに行くつもりでいた。ベッドから立ち上がり身だしなみを整え、食卓テーブルに座って準備されていたパンに苺ジャムを塗り齧り付く。



 甘い苺の風味が口一杯に広がり、鼻から吸い上げる空気もほのかに苺の香りがする。



 一分もしないうちに食べ終わり、皿を洗うためにシンクに持っていくが、母さんに皿を取り上げられてしまう。



「ほら、早くみきちゃんのプレゼントを選んでおいで! もう買うものは決まっているの?」



「あ、うん。決まってるよ」



「ならとっとと行っておいで!」



 急かされるように、背中を押されつつ玄関へと向かう。



 今日は歩くだろうと思いスニーカーを靴箱から取り出し、右足から踵を潰さないように履いていく。



 真っ新な汚れ一つ見当たらない新品の白のスニーカー。



「母さん、行ってくるね」



「気をつけていくのよ〜」



 玄関の扉を開け外に出ると、昨日からは想像ができないほどの雨。玄関に戻り傘を手にしてもう一度家を出る。



 靴を履き替えようか迷ったが、せっかくなのでそのまま履いていくことにした。



 久しぶりの傘に何故だか心が躍る。普段よりも静かな住宅街をイヤホンをつけて音楽を聴きながら歩く。



 晴れの日ならノイズキャンセリング機能を使って外の音を遮断して音楽を楽しむが、今日は僕が好きな雨の日なので外部音取り込み機能にイヤホンを設定し、音楽のバックサウンドとして雨の音が聞こえるようにする。



 好きな音楽に雨の静かな滴る音。なんとも心地が良くエモい。



 しかし、雨の日はどうしても歩いているだけで靴が濡れてしまう。これだけは雨の日が好きな僕でも嫌になってしまう。



 新品のスニーカーは既に、汚れてしまっていた。