「二人とも今日遅刻したんだってな。珍しいじゃん」



「な、なんで話してないのに想太が知ってるのよ!」



「そりゃ当然学校の高嶺の花的存在の希美が、男と二人で遅れてきたなんてビッグニュースでしかないからな。みんな今日はこの話題で持ちきりよ」



 隣で美味しそうに唐揚げを頬張っていた顔が曇り始める。



「はぁ、本当に疲れるよ。優等生を演じ続けるのは。私だって本当はみんなと同じように楽しく話したいのに・・・やっぱり、人が人に持つイメージってなかなか簡単には崩れないよね」



 確かにその通りだと思う。本当のみきちゃんは少し男勝りな性格をしているが、今更そんなことを言ったところでみんなの頭には完璧すぎて、非の打ち所がない優等生という存在がインプットされてしまっている。これを崩すのは容易なことではない。



「俺は無理するくらいなら引かれるかもしれないけれど、本当の自分で同級生とは接するかもな」



「そうするべきなのかな・・・」



「難しいな。でも偽りの自分はいずれ自分の首を絞めると俺は思うよ」



 僕と一花は黙って二人の会話を聞きながら相槌を打つ。



「いっちゃんはどう思う?今の話」



「んー、今のままでもいいんじゃないかな?確かに他の人からすると、高嶺の花すぎて近寄りがたい雰囲気もあると思うけど、それのおかげで得している人もいるしね。その誰かさんはそのことに気付いてはいないみたいだけど・・・」



 一瞬一花がこちらを横目で見たような気もするが多分勘違いだろう。誰かさんとは誰のことを言っているのか、僕には検討もつかない。



「え、それって・・・」



「希美ちゃん、今はまだダメだよ。そのうち本人も自覚し始めるだろうからさ」



 さっきから誰のことを話しているのかさっぱりわからない。隣にいる想太を見てみると、彼も難しい顔をして首を傾げていた。どうやら仲間はここにもいたようだ。



「なな、いち。もしかしてだけど、それってか・・・」



「あんたは黙ってなさい!」



「いってぇぇぇ!!!何すんだ・・・よ」



 空のペットボトルで頭を勢いよく叩かれる想太。



 一花の顔を見るととんでもない目つきをしている。今にでも、もう一発想太の頭に殴りかかろうとするかのような。



「ご、ごめんなさい。なんとなく察しました」



 彼もまた一花には頭が上がらないのかもしれないと思い不意にも笑ってしまう。



 周りから見たら他人の目には不思議な光景に見えてしまうはず。怒っているもの、反省しているもの、顔を赤らめて俯いているもの、そして笑っている僕。