「先生、私学級委員にはなりませんよ」



 みきちゃんの力強い覚悟が決まっているかのような声で我に返る。



「そうなのか? 他にやりたい委員でもあるのか?」



「はい、中学で学級委員はもうたくさんしたのでお腹いっぱいなんです」



「そうか・・・それは大変だったな。無理矢理押し付けているようで、申し訳なかった」



「いえ、そんなことありません。学級委員はしなくとも実行委員などは積極的にするつもりなので」



「それはありがたい。よろしく頼むよ! 松田はどうだ? 学級委員してみるか?」



 再度先生は僕に視線を移し、僕の返事を待っている様子。『やりたくないです』と言えば、きっとこの先生は理解してくれるはず。



 でもどうしても断る勇気が湧いてこない。口を糸で縫われているかのように全く口を開くことができない。



 ただただ緊張でおでこから汗が僕の頬を伝っていく。"あぁどうしよう。このままじゃ図書委員になれない。もう受け入れるしかないのだろうか"そんなことを思い、『わかりました』と言おうとしたところで僕の脇腹にツンと指が触れる。



「ひゃあ!」



「ど、どうした松田! 大丈夫か?」



 どうやら先生には今のは見えていなかったらしいが、僕には誰がしたのか当然わかっていたので隣にいる彼女を見る。悪戯をして笑っていると思った...でも彼女はそんな顔を一切していない。真剣な表情で僕の瞳を揺れることなく見つめている。



 "あぁ、そうかみきちゃんは僕に勇気をくれているんだな。先生に断る勇気を"手にはいつも通り手汗をかいていたが、その手をグッと握りしめ先生の目を見つめる。



「せ、先生。ぼ、僕はと、図書委員になりたいのです、だ」



 あまりの緊張で最後の方は噛んでしまったが、なんとか自分の想いを先生に伝えることができた。体に力が入っていたのか話し終えた後、体が脱力していくのが感じられる。



「そうか、残念だな。でも、先生はいつでも二人を頼りにしているから。これだけは忘れないでくれよ!」



「は、はい。ありがとうございます」



「それでは私たちはこの辺で。失礼しました」



 先生に軽く会釈をし、職員室の扉をゆっくりと両手で閉める。職員室の前の窓の隙間から入ってくる風が、僕の熱った体を静かに冷やしてくれた。