"てててん、てててん"着信の音で飛び起きる。名前を確認せずに光っている携帯画面のボタンを押す。



「あ、もしもし海?ごめんね、遅くにかけちゃったりして」



 どうやら電話の相手はみきちゃんらしい。携帯の画面を見ると時刻は午前一時。帰ってきてすぐに眠ってしまったので、六時間ほど眠っていたようだ。



「ど、どうしたの?こんな時間に珍しいね」



「んー、なかなか寝付けなくてさ。海なら相手してくれるかなーって思って」



 本当に彼女は僕をなんだと思っているのだろうか。こんな時間に暇潰し相手に電話なんて...悪い気もしないが。



「今日楽しかったね!久々に四人で遊んだ気がする」



「そうだね。やっぱりあのメンツは落ち着くよ」



「間違いないね。私は一番海の声が落ち着くけどね。もう眠くなってきちゃった」



 確かに声が弱々しく眠たそうな声になってきて僕まで眠気に誘われる。



「早いな。まだ電話して一分も経ってないけど」



「海の声が落ち着くから悪いんだよ。ねぇ、知ってる?」



「何を?」



「好きな人の声聞くとね、人って安心して眠くなるらしいよ」



「えっ?」



 聞き間違いだろうか。確かに彼女は、僕の声を聞くと眠くなると言っていた気がする。



 いや、でも相手はあのみきちゃんだ。騙されてはいけない。これまで僕は何度も彼女の掌の上で転がされ続けてきた。今日という今日は騙されるわけにはいかない。



「何か言ってよ」



「そんな甘えたこと言っても、僕は騙されないぞ!」



「・・・・・ばーか」



 難しい。どうやら、僕の解答は完全に不正解だったようだ。テストの答案用紙だったら、0と書かれているだろう。



「なんか、ごめん」



「いいもん。ねぇ、明日の天気はなんだろうね。晴れかな?」



「明日はね、晴れだよ。今日の夜は雨が降るらしいけど」



「そっか・・・私もう限界みたい・・・」



 時間を確認すると、彼女から電話がかかってきて五分が経過していた。



「じゃあ、寝よっか」



「ねー海。電話切らないでね・・・おやすみなさい」



「おやす・・・」



 言いかけたところでスースーと寝息が聞こえたのでそっとしておく。相当眠かったんだろうなと思いつつお風呂に入っていないことに気付き、急いで入る準備をする。



 お風呂では普段携帯を使って動画を見たりしているのだが、今日は電話がつながっているため持って行くことができない。



 静かに通話の終了ボタンに人差し指を伸ばすが、あと少しで触れるというところで指を止める。



「いつもありがとね・・・僕はみきちゃんといつまでも・・・」



 "パタン"誰かがトイレに入った音がして我に返る。早くお風呂に入らないと...携帯をベッドの上に置いたままお風呂に向かう。



「・・・・・好き」



 携帯から小さな声がするが、生憎部屋には誰もいなかった。部屋に囁かれる空気のような彼女の一言はひっそりと静かな夜へと溶けてしまった。