突然のフリに身体中の筋肉が硬直していくのがわかる。



「僕は・・・小学校の先生になることが夢なんだ・・・」



 正直秘密にしておきたかったけれど、彼らにはこれ以上隠し事をしたくなかったので本音を話すことにした。



「え、意外だな。海が小学校の先生なんて。海の成績なら弁護士とか俺と同じ医者とかだと思ってた」



 確かに僕やみきちゃんの今の成績なら社会的地位の高い職業になることは可能だろう。確信はないが...



 それでも僕はどうしても小学校の先生になりたい。誰になんと言われようとこれだけは譲るつもりはない。



「僕は小学生の時、外で遊ぶのが嫌いだったのはここにいるみんなは知っているよね。ある日、放課後一人になった時に当時担任だった小林先生にこう言われたんだ。『無理に人に合わせようとしなくてもいい、人は人だから。それに君は既に大切なものを持っている。それは君にとってかけがえのない一生の宝物だ』って言われたんだ。当時の僕には難しくていまいちわからなかったけれど、今ははっきりわかるよ。きっと先生は"友達"や"家族"のことを言っていたんだよね」



「そうだったのか。小林先生にそんなことを・・・だから海は先生になりたいのか?」



「うん。僕みたいに一人でいる子の力になってあげたいんだ。きっと今も本当はしたくもないのに無理に合わせて、誰にも悩みを打ち明けられずに苦しんでいる子がいるはずだから、僕はその子たちと同じ目線に立って自分が小林先生に教わった"宝物"を彼らにも教えてあげたいんだ」



 小林先生はもちろん僕の心臓が弱いことを知っていた。それでも先生は他の子たちと変わらず一人の生徒、いや一人の子供として僕の味方でいてくれた。



 僕はそんな誰にでも平等に接してくれる先生が大好きだった...けれど運命はやはり味方をしてはくれなかった。小林先生は僕たちが四年生に進級という時期に他の小学校へと異動になってしまった。



 ちなみに想太と一花とは四年生でクラスが同じになってからの付き合い。



 小林先生が異動になった時は悲しかったが、教師に異動は付き物なので正直仕方ないと諦めていた。次の先生もきっと僕のことを理解してくれる。僕はその思いを胸に進級したが、それからは本当に酷かった。



 新しい担任に少し期待していたが、その期待は一気に地に落ちてしまう。新しい担任は僕のことを厄介者として扱い、まるでクラスに存在していないかのような扱いを受けた。



 そんな扱いを何度受けても折れずにここまで生きてくることができたのは、ここにいる三人の支えや両親、そして小林先生の言葉があっての今の自分がある。



 あれ以来小林先生には出会っていない。今は一体どの小学校にいるのだろうか。もしかしたら、将来同じ職場になるかもしれないと思うと胸が弾む。