「んー、走るのはいいかな。私あまり走るの好きじゃないし」



 内心ドキドキしていたがその言葉を聞き、平静を取り戻していく。"あれ、みきちゃんって走るの好きだったはず"と思うも、この時は自分のことでいっぱいいっぱいで他に考えられる余裕なんて僕にはなかった。



 隣においてあったコップのジュースを先ほどと同じく一気に飲み干す。全身から噴き出ていた汗が引いていくかのように体が冷えていく。



 体の隅々にまで染み渡るひんやりとした感覚。



「え、それ・・・私のコップ・・・」



 隣を見ると顔を赤く染めながら、僕が手に持っているコップを見つめているみきちゃん。



「あぁ、ごめん飲んじゃったよ」



 あまりにもパニックに陥っていたので自分の周りがよく見えていなかったみたいだ。手当たり次第に近くのコップを取ってしまっていたらしい。



「か、関節・・・」



「え、関節? 別に痛くないよ?」



「おぉい! かーい! それ希美のコップだぞ〜? てことは・・・?」



 ニヤニヤしながらじゃれついてくる想太を疑問に思いながらコップに目を移す。これは僕のではなくみきちゃんのコップ,,,



「あ! もしかして間接キスしちゃったの僕!」



「こ、こら! わざわざそんな恥ずかしいこと言わなくてもいいでしょ!」



 顔を伏せたままのみきちゃんに頭を叩かれる。めちゃくちゃ痛い。ほぼ全力に近い渾身の一撃だったに違いない。



 想太と一花が僕らを見ながら楽しそうに声を上げて笑い合っているのを見ると、つられて僕も笑ってしまう。恥ずかしそうに俯いている人を除いてその場は大いに盛り上がった。



 僕とみきちゃんは何度も間接キスなんてしてきたし、小さい頃はお風呂にだって一緒に入っていたのだから、今更恥ずかしがることなんてないはずなのにと疑問に思ってしまう。



 他人がたくさんいる公園で言ってしまったのが、まずかったのかもしれないと心の中で反省した。