「ねね、今度は何食べるー?」



 先ほどまでお菓子を一人で食べていたはずのみきちゃんが、もう既に次のお菓子へと手を差し伸べている。一体いつの間にお菓子を食べてしまったのだろうと感心してしまう。



 みきちゃんの横には無造作にぐしゃぐしゃに握り潰されたまま、レジャーシートの上に放置されている無惨なお菓子の袋。



 普段は女の子なのに時々男混じりになるのはやめてほしいが、言ったところで変わることはないし、慣れてしまっているので今更無駄にも感じる。



 慣れとは本当に怖い。おかしなことでも見続けたり聞き続けたりすることで、それがあたかも当然かのように日常生活において自然なものになってしまう。



「希美はさっきお菓子食べたばかりだろ!」



 すかさず想太がみきちゃんの手からお菓子を取り上げる。確かにこのまま彼女を放っておいてしまったら、買ってきたお菓子がものの数分でなくなることは間違いないだろう。



 それだけは阻止しないといけない。僕らの食べる分のためにも、彼女の体のためにも。



「えー、想太のケチ!ねー海。食べてもいいよね?」



「え。や、やめといたら?一花も同じ女子として止めるべきだよね」



「希美ちゃん、だってよー? 海がやめといたらって言ってるよ?」



「う、う、なら我慢するよ」



「ねね、希美ちゃん・・・」



 一花がみきちゃんに詰め寄り何やら耳元で何かを囁いているみたい。聞こえないように話しているのでもちろん僕と想太にその声は届いていない。話し終えたと思いみきちゃんを見てみると、彼女は口を開けたまま顔が青白く硬直している様子。



 一花に何を吹き込まれたのだろう。なかなか彼女のあのような表情は見ることができないのでレアすぎる。



「お、お菓子控えるよ・・・」



 みきちゃんが今まででお菓子を食べることを我慢すると言ったことがなかったので、衝撃的すぎて手に持って開けようとしていたポテチの袋を思いっきり破いてしまい、中身が弾け飛ぶ。



 一瞬ポテチが宙を舞う姿は広大な青空を羽ばたく蝶々に見えてしまい、なんだか幻想的。
 


 しかし、幻想的だったのはたった一瞬。すぐにポテチがレジャーシートの上にバラバラになってしまい、現実に引き戻される。



 もう少しだけあの光景を見ておきたかったが、あの光景は一瞬だから美しく感じるのかもしれない。



 仮に空中で止まったとしても、それはただのポテチが浮いているだけにしか見えないのだろう。そう考えるとなんだか冷めてしまった。