昇降口で靴に履き替え地面を歩くと、下には校庭に咲いている桜の花びらが点々と地面に張り付いていた。多分ここの桜もあと一週間くらいで散ってしまうと考えると少し切ない。



「コンビニとスーパーどっちがいいかな?」



「コンビニの方が公園に近いしコンビニでいいんじゃない?」



「おっけー!何買おうね!」



 見るからに既に興奮している様子の彼女。確かにお花見なんて小さい頃以来だなとふと思い返してしまう。幼稚園の時はお花見という一年に一回のイベントが楽しみで仕方がなかった。



 あの頃はお花見の良さの半分も理解できてはいなかったとは思う。今でも完璧に理解できているとは言えないけれど。



 心臓のことで倒れてからというもの、あまりはしゃぐような場所には行かなくなった。きっと両親が僕が走り回って倒れるのを防ぐためだとは思うが。



 お花見もそのうちの一つだった。



 色々と思い返しているうちに目的のコンビニまで来ていた。放課後ということもあり、高校生がコンビニの前にたむろっているのが見える。



「私たちもさ、入学式の次の日コンビニの前でアイス食べながら話してたよね」



「そうだね。あの時は中学生ではできなかった放課後の寄り道買い食いに憧れていたからね」



「今となっては当たり前になっちゃったけど、あの時の優越感はすごかったなー。だって、買い食いなんて中学生では考えられなかったからね」



「結局アイス買いにまた店内に戻ったからね」



 二人で笑いながら店内に入ると、何を買えばいいのか迷うほどの大量の商品。コンビニを作った人は天才だと思う。



 少し料金は高めだけど近場にあるこの手軽さ、それにコンビニ一つで基本ある程度のものは足りるので、この先一人暮らしをしてもコンビニさえ近くにあれば困ることはまずないだろう。健康の保証だけはできないが。



「お花見って言ったら、団子とお菓子とジュース・・・あと何買えばいいのかなー?」



「みきちゃんさ、『花より団子』だよね」



「し、失礼だな!ちゃんと桜の良さだってわかるし、ちゃんと桜見るもん!」



 既にカゴには大量の食べ物と飲み物。本当に桜を見る人のカゴの中身には全く見えない。言動と行動が全く噛み合っていないのはなぜだろうか。



 公園におやつを食べに行く女子高校生にしか見えないが、それもそれでいいのかもしれない。



 彼女が幸せそうなら、僕はそれだけで十分なんだ。笑っている顔さえ見ることができれば...



 レジに商品を持っていき店員さんに会計をしてもらおうとしたところで電話が鳴る。