「放課後さ、どこか行こうよ」



 授業中ということもあり、小声で話しかけてくる彼女。隣を見るとノートに落書きをしているのが見える。今は歴史の授業なのでみきちゃんにとっては退屈で仕方がないのだろう。



 有名な偉人たちがあられもない姿になっているのがチラッと見えた気がした。



 たぶん、あれは正岡子規だったような...



「いいけど、どこか行きたいところあるの?」



「んー、公園に行きたい」



「なんでよりによって公園なの?」



 普通女子高校生と言ったら、ゲームセンターとかカラオケなどの所謂キラキラしたところに行きたがるイメージなのに、みきちゃんは一切そういうのがない。周りに流されないのはいいことだけれど、たまに心配になってしまう。



「四人でお花見がしたい」



「お、いいかもね。お昼になったら二人も誘ってみようか」



「海、桜見て興奮しないでよ」



「こ、興奮なんてするわけないだろ!」



 勢いよく立ち上がってしまい椅子が後ろに倒れる。"ガタン"静かだった教室に大きな衝撃音が鳴り響く。



「お、おい!どうした松田!」



「いえ、なんでもありません。先生、授業を中断してしまい申し訳ありません」



「そ、そうか。静かに授業を聞くように」



 あまりにも大きな音だったので、クラスメイト全員が静かにこちらを凝視している。今の僕がみきちゃんだったら、きっと今頃教室は笑い声が飛び交っているのだろうと考えるとなんだか自分が物凄く虚しく感じる。



「そんな動揺しなくてもいいじゃん」



 隣で他人事のように笑っている彼女。一体誰のせいでこんな目に遭っているのか。でも、彼女が僕のことで笑ってくれるのは純粋に嬉しい。



「う、うるさいなー」



 その後も彼女がクスクスと笑っていたせいで全く授業に集中できなかった。おかげでノートは板書できず真っ白のまま。



 勉強についていけなくなる訳ではない。ただ、後でノートを借りて写すのがめんどくさいのだ。