何が何だかわからない。私のことをこの世で『みきちゃん』と呼ぶのはただ一人しかいないはず。そう今は亡き、彼だけ。



 それなのにこの子は私のことを確実に『みきちゃん』と呼んだ。海が私たちの秘密をバラすはずがない。一体どうして...



「もしかして・・・海な・・・の?」



 あまりの出来事に声が裏返ってしまって思うように話すことができない。まさか、死んだ海が生まれ変わって、また私の元に現れたなんて誰が信じるのだ。



「気付くの遅いよ・・・それに一人にさせてしまってごめんね。ずっと寂しい思いをさせたよね・・・」



「う、ううん。私は・・・」



 気付くと私の目からは涙が一滴、また一滴と顔を伝うように下に落ちていた。泣いているせいもあって、思うように言葉を続けられない。



「つい最近まで、何も覚えていなかったんだ。引っ越しが決まってなんとなくこの街を今の母親と歩いていた時、あの思い出の公園に惹かれてね。足を踏み入れた途端に急に頭に流れ込んでくるかのように、みんなとの思い出が蘇ってきたんだ」



 私はただ黙って彼の話を聞くことしかできない。



「それでね、なぜかみきちゃんが泣きながら、あの桜の木の下を掘っている映像が頭に流れ込んできてね、その後はもう勝手に体が動いてた・・・ほら、見つけてきたよ」



 海の手には八年前に海に渡した黒と白の鳳蝶のキーホルダー。少し錆びてはいるものの、大事に洗ってくれたのか光っているようにも見える。海の小さな手から白い鳳蝶のキーホルダーを八年ぶりに手にする。



 あの頃と見た目は何も変わらないが、重みだけは全く違う気がした。