そこにいたのは一人の少年だった。すぐにその少年が教頭先生が話していた転校生なのだと理解できた。



 一年生にしては纏っている雰囲気がまるで他の子とは全く違う。言葉にするのが難しいくらい、静かで大人びている。



 達観しているとでもいうべきだろうか。



「こ、こんにちは」



 どうやら私が来たことに気づいていなかったらしく、その子の瞳が大きく見開かれる。とても整った顔に少し日本人離れしているような瞳の色。その容姿がより一層、知的さを醸し出している。



「こんにちは。勝手に教室に入ってしまいごめんなさい」



 本当に一年生なのかと悩んでしまうほど、流暢に話す彼。



「ここで何をしていたの?」



「明日からこのクラスで過ごすので、様子を見ておきたくて。それに雨に濡れる桜を見たくて」



 なぜ、雨なのか。普通なら晴れている日に見る桜の方が綺麗に見えるはずなのに。



「どうして、晴れの日じゃないの?」



「それは、僕が雨が好きなのもありますけど、なんか雨に濡れた桜って儚くて美しいじゃないですか・・・命の終わりを見ているようで」



 本当にこの子は小学一年生なのだろうか。明らかに一年生とは思えない言動、それに桜を儚いと捉える感性。



 絶対におかしい...



「君は一体何者なの?」



 つい口に出してしまった。流石に口に出さずにはいられなかったというのが正しいが。



「希美先生・・・いや、みきちゃん・・・久しぶり」



 雨の音が静かな教室に鳴り響いていたが、彼の今の言葉だけは周りの音が何も聞こえないくらいクリアに聞こえてしまった。