まっすぐ家に帰り、一ヶ月ぶりの実家で母の手料理を食べる。一ヶ月しか経っていないというのに母の手料理がとても懐かしく感じる。これが実家の味なのだな...



 実家から私が一人暮らしをしている家は近いのだが、いつも海の命日は実家に泊まっていくことが多い。今日も実家に泊まっていく予定だ。自室に戻り、一年ぶりに海からのメールを開く。



 命日には必ずこのメールを見てしまう。もう何度見返したかわからないメール。それを大事に一文字一文字大切に漏らすことなく読んでいく。



 唯一この時間だけが私をあの頃の青春時代に引き戻してくれるものとなっていた。



 少しだけ夜風に当たりたくなってきたので、家を出てあの公園へと足を向ける。街灯に灯が灯り虫たちが光に導かれるように飛んで群がっていく。



 誰もいない公園に着き、一人ベンチに腰掛ける。周囲は虫の鳴き声さえも聞こえないほどの静寂に包まれている。



 自然と私の視線は八年前、鳳蝶のキーホルダーを埋めた桜の木の下に惹かれるように見ていた。今でもあの場所に埋まっているのかと思うと、無性に掘り起こしたくなってしまう。誘導されるように、桜の木の下へと足を進める。



 八年前、ここで二匹の鳳蝶を埋めたのを思い出す。あの頃は絶望の真っ只中だったけれど、今は少しだけ心にも整理がついているから掘り起こしたくなったのだろう。



 スコップは持ってきていなかったので、手でゆっくりと地道に掘っていく。



 十分掘り続けても一向に出てこない二匹の蝶々たち。そんなに深くに埋めた覚えはないのだけれど...



 結局三十分探し続けても見つからなかったので、諦めることにした。もしかしたら、八年の年月で埋めた正確な位置を忘れてしまったのかもしれない。



 かすかな戸惑いを覚えながら家へと向かうのだった。誰かが掘り起こしたあとだったとは知らずに...