海のお墓の前に行こうとすると、そこにはすでに先客がいた。さっきの少年...



 誰なのかわからないが、きっと海のお墓に薔薇を供えているので海のことを知っている人かもしれない。



「あ、あのう。海のことを知っているんですか?」



 近くで彼を見ると、服装は私たちが通っていた高校の制服だった。久々に見たその制服に海の面影を感じてしまう。
 


「はい。もちろん知っています。春川希美さん、あなたのことも」



 透き通るような声に聞き入ってしまったが、どうやら彼は私のことまで知っているらしい。



「どうして、私のことを知っているのですか?」



 海に雰囲気は似ているが、私は多分この子にあったことはないはず...



「僕は、海さんと希美さんに憧れて同じ高校を受験したんです。海さんは困っている僕にあの時、薔薇を笑顔で渡してくれた人なので一生忘れることはありません。僕はずっと後悔してきたんです。あの日、海さんに僕が出会わなければ、海さんが亡くなることはなかったのではないかと・・・」



 思い出した...彼は海の葬式の時に母親と泣きながら海からもらったと言っていた、萎れた薔薇を持っていたあの小さい男の子だ。



 毎年、私がここに来るとすでに薔薇が置いてあったのは、彼が命日に欠かさず訪れていたからなのか。それにしても見ない間に随分と立派に成長したように見える。高校生の時の海にそっくりなくらい。



 それにこの子も自分のせいで海が死んでしまったのだと、長年辛く重い気持ちを抱えてきたのだろう。幼いながらにして...



 同じ気持ちの人がいてくれて嬉しい気もするが、この子には何の後悔もしないでこれからの人生を歩んでほしい。だから...