玄関から外に出てすぐさま隣のお店に足を踏み入れる。"カランカラン"お店の扉につけられているベルの音が鳴り、女性の店員さんがレジから顔を出す。



「こんにちは」



「あら、希美ちゃん! 随分見ない間に大人の綺麗な女性になっちゃって!これは世の男が放っておかないわね」



 相変わらず元気な海ママ。海の両親は海が亡くなった直後は店も休業し、なかなか家から出る姿を目にしなかったが、ある日から急にお店を再開するようになり、以前の元気さでお店を回していた。



 何があったかはわからないけれど、八年経った今でも振り切れていない私に比べ、二人はもう振り切れてしまっているかのような姿に感心してしまう。



「随分見ない間って言っても、最後にあったの一ヶ月前くらいじゃないですか」



「そうだったかしら。最近物忘れがひどくてね。でもね、希美ちゃん。女はね少しの期間でも大きく変わるものよ。例えば、"恋"をしたりするとね」



 "恋"久しぶりにその単語を聞いた気がする。私からは笑顔と共に抜け落ちてしまった言葉。そしてこの先も口にすることはないであろう言葉。



「恋・・・なんてもう何年もしてないですけどね・・・」



「そうよね・・・海もこんな美人さんにここまで想われてるなんて本当に幸せ者ね!」



 どうしてそんなにおばさんは明るく海のことを話せるのだろう。私には到底できるわけがない。