昔を思い出しながら、車のエンジンをかける。この車は私の就職祝いに両親からプレゼントしてもらった黄色のラパン。右足でアクセルを踏み、車を走らせる。Bluetoothで車のスピーカーと携帯を接続して音楽をかける。



 もちろんかける音楽はモーツァルトの『レクイエム』。春の温かい風を車で切るかのように進んでいく。少し窓を開けると、隙間から桜の匂いが車に漂い始める。



 私はこの桜を一人で何度見たのだろうと想いに耽るが、それはこの先も同じに違いない。



 彼と見た桜はもっと生き生きと咲いていた気がする。



 十分ほど車を走らせると、実家が目の前に見えてくるので、慎重に駐車をして車から降りる。運転をしてしばらく経つが未だに駐車だけは苦手。



「ただいま〜」



「あら、おかえりなさい。やっぱり家に帰ってきたわね」



 皺は増えたけれど、まだまだ元気そうな母親を見ると少し安心してしまう。何歳になってもやはり私はこの人の子どもなんだなと実感する。



「うん、だって今日は命日だから・・・」



「そうね、もう八年だもんね。あっという間だったわね。海君も生きていたら、今頃希美と同じ小学校の先生になっていたのかしら・・・」



「どうだろうね。海が生きてたら、私は小学校の先生にはなってなかったかもしれないな・・・」



「そうかもしれないわね」



 二人の間に沈黙が訪れる。毎年この時期になると母も海のことを思い出してしまうのだろう。



 私の両親も海のことを実の息子のように可愛がっていた...それに将来は義理の息子になると勝手に張り切っていたのが懐かしい。



「歩いてお墓に行くから、駐車場に車置いて行くね」



「わかったわ。気を付けて行ってらっしゃい。今日は夕飯家で食べてく?」



「うん、食べてく」