教室に入ると私の席の隣には、花瓶に入れられた花が添えられていた。もちろん、あるのはわかっていた。でも目にした途端、もう彼はみんなの視界には映らなくなってしまったのだと思うと、耐えられなかった。



 元々海は目立つような人柄ではなかったけれど、ちゃんとこの教室には存在していた。それがもう思い出という形でしか、残らない存在になってしまったのが苦しい。



 そんな私にみんなは声をかけることもなく、ただ"見守っている"一歩距離を置いた雰囲気。



 大半が哀れみを含んだ、"可哀想に"という表情を顔に貼り付けている。誰にも哀れんでほしいなんて頼んでもいないのに。



 鞄を静かに下ろし、自分の席に座る。いつも隣で優しく見守っていてくれた彼のいない教室は、私にとって何の価値もない場所と化してしまった。



 窓の外には今にも散ってしまいそうな桜の木が、風に揺られながらも懸命に咲き誇っている。ひとひらずつ青い空へと舞い上がっていく。彼方遥か遠くのどこかを目指して。



 もしかしたら、海も遠くのどこかで...と淡い願いを胸に抱えながら、私は再び目線を教卓へと向ける。



 彼の目指したもののために努力をすると、心に深く刻んで。