会場に着くと、真っ黒の服に身を纏った人たちが傘を片手にぞろぞろと歩っていた。誰一人、明るい表情のものはいない。その中に想太といっちゃんの姿を見つける。



 二人は別人かのようにやせ細り、覇気のない顔をしたまま佇んでいた。海の死を未だに受け止めきれていないそんな様子。



 正直私だって、今日の式に参加しようか昨日まで悩み続けた。式に出たら、海が死んだことを認めないといけない...私にはそれがどうしてもできなかった。



 信じたくなかった。ダメだとはわかっているんだ。でも...認めたくなかった。



 決め手となったのは、やはり海からのメールだった。この一週間何度も見返した海からの最後の言葉。おかげで今はメールを見なくても、文章を一言一句間違えることなく言えるようになってしまった。



 彼が私に伝えたかった、"またいつか"という言葉を信じて私は今日彼に別れを告げる。そうしたらきっと来世ではまた会える気がするから...いつかまたどこかで。



「希美・・・」



 いつの間にか想太といっちゃんは私の隣に来ていた。遠くからではわからなかったが、二人とも頭から服まで雨に打たれて濡れている。



「二人とも傘はどうしたの・・・」



 先に口から出たのは、彼らの心配だった。こんな雨の中、傘をささないなんておかしいに決まっている。それなのにどうして...



「あぁ、傘ならあっちに置いてあるよ」



「なんでささないの・・・」



「なんでかなぁ、わからないけど海が好きだった『雨』を感じたくてさ。雨に打たれてたら、海とまた話せるような気がして・・・なんも聞こえないよ。バカだよな、そんなことありえないのに。でも、不思議と寒くはないんだ。もしかしたら、この雨は海が降らせてくれてるのかもな」



 正気ではないと思った。いくらなんでもそんなことがあるわけない。それでも二人の気持ちはわかる気がした。この雨からは海の声が聞こえてくるそんな気が...私も傘を投げ捨てて雨の中に身を任せる。



 逆さになった傘の内側に、雨がポタリポタリと溜まっていく。



 "またね"と私たちの耳に海の声が聞こえた気がした。