桜の木の下の地面を手で掘り起こし、小さな穴の中に、二匹の鳳蝶を静かに添えて土を被せていく。



　"どうか次生まれ変わるときも海に出会えますように"と淡い期待を胸に込めながら、掌を合わせ拝むように祈る。



　桜が風に揺られて優しいほんのりとした香りが私の周りに充満する。桜が私に"大丈夫だよ"と背中を押してくれている感じがした。



　そんな桜でさえ、今は鬱陶しく感じてしまう。



「お願いだから・・・もう一度だけ会わせてよ・・・」



　誰もいない公園に溶け消えてゆく私の声。風に揺られた桜の花びらが何枚も私の頭上に落ちてくる。



　まるで、桜の涙にも見える悲しい眺めだった。



　公園から出ると、すでにオレンジ色の空が目の前には広がっていた。綺麗なのだが、心が前みたいには動かない。



　ポケットに手を入れると、何かが入っている。取り出し掌の上に乗せる。出てきたのは海からもらったイヤホン...



　途端に私の奥底から黒い感情が湧き上がってくる。"これのせいで...これのせいで"と。



　地面に叩きつけてしまいたかった...でもできなかった。



　この忌々しいイヤホンは彼からもらった最後の誕生日プレゼントだったから。



　大きく息を吸い込み、どうにもできない感情をグッと堪えポケットに再びしまう。当分の間はこのイヤホンに触れることはないだろうと思いながら。



　家に帰ると、両親が思い詰めた様子で私のことを迎え入れてくれる。



「希美・・・あなたは大丈夫？」



「うん、もう大丈夫だよ」



「本当に無理してない？泣いても・・・」



「大丈夫だって、もう散々泣いたから・・・」



　両親は私のことを心配するように見ていたが、これ以上誰とも話したくなかったので急いで自分の部屋に入り込む。



　笑顔で返事をしたつもりだった。部屋にある手鏡で確認した顔は、引き攣っていてとても笑顔とは言えるような顔ではない。なんとも歪で気味の悪い作られた笑顔。



「・・・大丈夫なわけない・・・じゃん」



　部屋の中の静けさが私の心を深い闇へと招いている感覚に囚われていく。