「希美ちゃん・・・そんなに自分を責めないでよ」



 優しい言葉が私の頭上から降りかかるが、あまりにも優しい声すぎて顔を上げることすらできない。



「だって、さ・・・海はきっと・・・命に変えてでも、大切な希美ちゃんを・・・守りたかった、んだよ。だからその決断を・・・否定しないであげて。泣きたくても泣けないんだよね。分かってる。希美ちゃんは・・・自分のせいだと思って、罪悪感で・・・押し潰されているんだよね」



 私の気持ちを代弁してくれながら、途切れ途切れの海パパの声に私は思わず、上を向いてしまう。



 この瞬間に私の中から笑顔という表情が自分の中から、完全に消えていく感じがした。



 私の顔に雨のように打ち付ける無数の水滴。海パパも泣いていた。私も二人と一緒に泣きたいんだ。でも泣くことすら私の体は許してくれない。



 海パパの涙が私の顔に降り続け、まるで私が泣いているかのような、疑似的な涙となった。



「希美ちゃん、泣きたい時は我慢せず・・・目一杯泣くのよ。私たちはそれくらいしかできないから・・・そうすればいつか必ず前を向ける日が、来るから」



 海ママが私に泣きながらも語りかけてくる。本当は死ぬほど辛いはずなのに、私を励まそうと力強い声で私の心に訴えかけてくるその言葉。親より先に息子に旅立たれて辛いのに、二人はこんな私に気を遣ってくれているのが心痛い。



「希美ちゃん、私たちはここで失礼するね。色々とやることが出てきたから・・・」



 海パパはそう言い残し、海ママを引き連れて互いに支え合うようにゆっくりと静かな足取りで、暗い廊下に差し込む光の方へと歩いていった。



 いつもは大きく見える二人の背中が、今だけは誰よりも小さいものになって見えた。