「海! 海!!! ねぇ起きてよ!」



「ちょっとあなた下がってください!」



「私の大切な人なんです! 離して!!!」



 運ばれている彼に無理に近づこうとして救急隊員に止められる。それでも引き下がることはできない。だって、目の前で目を閉じて眠っていたのは...



「もしかして、彼の知り合いですか?それにあなたも怪我をしている。一緒に乗っていってください」



 取り乱しながらも救急隊員の案内のもと救急車へと乗り込む。



 人生で初めて乗った救急車が、こんな形になるとは思ってすらいなかった。



「あ、あの海は大丈夫なんですか!?」



 私の声が届いていないのか、汗をかきながら必死に心臓マッサージをする救急隊員。その姿を見ているだけで海の心臓が止まりかけていることが分かる。だからこんなにも必死に...



「この子のかかりつけの病院ってわかりますか?」



 何をしたらいいのかわからない私を落ち着かせるように、優しい声で問いかけてくる。そうだ、海はまだ死んだわけじゃ...



 息を大きく吸い込んで、吐き出してから慌てずに答える。



「ありがとう。近いので、今すぐ向かいます。何か、彼のことを知っていますか?」



「は、い。海は昔から心臓が弱かったみたいで、走ったり運動したりすると命に関わるらしくて」



「そうですか...できる限りのことはしてみます」



 そのまま他の隊員と代わる代わるに心臓マッサージをしていく彼ら。その傍で何もできず、ただ力無く動かなくなった海の手を握り締めることしかできない私。



 あまりにも無力すぎる私の存在に嫌気を差しながら、今は祈り海を信じることしかできなかった。