いつからだろうか。悠の隣にいる女の子が私に見えるようになったのは。

 確か、悠と付き合っている人は1学年上の先輩だったはず。

 名前は...北見小鳥(きたみことり)と可愛らしい名前の上に、外見までも名前にふさわしい可愛らしさだった。

 クリッとした二重瞼に綺麗なサラサラ黒髪、ぷるっとした艶のいい唇。血色のいいすべすべ透明感のある肌。

 どれも私にだって備わっているものばかり。唯一違うのは、髪の長さくらい。

 なのにどうして、悠は北見先輩を選んだのだろう。

 こんなにも魅力的な幼馴染がいるというのに。

「ねぇ、悠くん。今日の放課後デートしない?」

「いいですよ。ちょうど今日部活がオフの日なんで」

「どこか行きたいところある?」

「んー、先輩と一緒ならどこでもいいです。どこでも楽しいですから」

「わかった!放課後までに決めておくね」

 楽しげに話す会話が私の耳にまで届いてくる。これではまるで、盗み聞きをしているみたいではないか。

 あながち間違ってはいないのが、若干心苦しい。

 私がいることなど気付かずに、隣の彼女に鼻の下を伸ばしながら校舎へと向かっていく悠。

「あれ・・・おかしいな。やっぱり私に見える」

 先ほどまでは北見先輩に見えていたはずが、何度目を擦ってみても私の目に映るのは、私と瓜二つの顔。

 私がいるはずがない。だって、私は...前川梓(まえかわあずさ)はここにいるのだから。

「あれ、梓じゃん。そこで何しているの?」

 私の声が聞こえたのか悠が私の存在に気づいたらしい。

 彼の隣にいる"私"もこちらを振り向く。笑った。笑う顔までもが私と同じ顔。

「こんにちは、梓さん」

「こんにち・・・あれ。北見先輩だ・・・」

「何言ってんだ梓。ずっと先輩は俺の隣にいただろ」

「え、うん。そうだよね、ごめん。最近疲れてるのかも・・・それじゃ」

 背後で悠が何か話しかけてくる声が聞こえたが、聞こえないふりをして校舎の中へと逃げ込んでいく。

 どうして急に北見先輩に見えたのだろうか。数十秒前までは、私の姿をした誰かがそこにいたはずなのに。

 わからない。私がおかしいのか、それともこの世界がおかしいのか、私には判別できない。

 一体あれは誰なんだろうか。不思議と恐怖はなかった。

 ただ私の頭では考えきれないほどの情報で溢れかえっていた。