「ねぇ、悠。聞いてほしい私の話を」

「うん」

「私ね、悠を北見先輩に取られたことが悔しかった。この1週間ずっと悔しくて・・・私は悠のことが好きだったから、私の隣からいなくなったことが寂しかった。ずっと『好き』って気持ちで私は悠を縛り付けていたのかもしれない。互いの『好き』の想いは全く違っていたのに。私はね、悠のことが大好きよ。でも、それは家族に対するものと同じ感情。決して、悠と恋人になりたいって感情ではないの。やっとそのことに気が付くことができた」

「そっか・・・俺やっと梓に振られたんだな。10何年もの片想いがようやく終わったよ。ありがとう梓」

「こちらこそありがとうね。私を好きになってくれて、いつも側にいてくれてほんっと悠は最高の幼馴染だよ。最後にさ、私の我儘聞いてくれる?」

「そんなのいつも聞いてるだろ?むしろ、今まで聞いてこなかったことあるかよ」

「ない! これからも私と幼馴染として、今まで通り接してくれる?」

 フッと笑う悠。1週間ぶりに見た彼の心の底から嬉しそうに笑っている顔。

「あぁ、もちろんだよ。いつまでも俺らは幼馴染で親友だ!」

「あら、2人揃って何しているの?」

 悠の背後からこちらに歩いてくる女性。1週間ずっと私の顔を貼り付けているように見えた北見先輩。

「うーん、なんですかね。俺らの思い出話に花を咲かせてました」

「本当に2人は仲がいいのね。ちょっとだけ嫉妬しちゃうわ。2人の仲の良さに。あ、誤解しないでね。悠くんにではなくて、梓ちゃんを独り占めしないでほしい。私も梓ちゃんと仲良くなりたいの」

「えー、俺じゃないんですか?なんか複雑」

 2人の微笑ましいやり取りを眺める。以前とは違って、そこに嫉妬や妬みといった感情は一切存在しない。

 むしろ、嬉しいまであるかもしれない。こうして、大切な人が誰かに大切にされている姿を見るのは。

「梓ちゃん」

「はい!」

「私ね、梓ちゃんとも仲良くなりたいの。悠くんが大切にしている人は、私にとっても大切な人。だから、これからもよろしくね」

 彼女の顔に嘘は見えなかった。信頼していないわけではない。ただ、彼女がどういった人間なのか、やっと理解することができた気がする。

 どうして悠がこの女性を選んだのか、今なら不思議なくらい理解できてしまう。

「はい。私も先輩と仲良くしたいです。色々とよろしくお願いしますね。それと、悠が何か悪さをしたら私に言ってください。すぐにぶっ飛ばしに行きますので!」

「あら、それは頼もしいわね。だってよ、悠くん。気をつけなきゃだね」

「お、俺はそんなことしないからな!」

「あっ!」

「どうかしたの?」

 消えていた。私と同じ顔をした人物が完全に消え去って、北見先輩の顔がはっきりと視認できた。美しく整った美を強調した容姿。

 そうか。私に視えていたもう1人の私は、私の強すぎる独占欲からきたものだったのかもしれない。

 それがなくなった今、私の目には再び先輩の姿が見えるようになったわけだ。

 でも、これでよかった。これでようやく、悠や北見先輩とこの先も楽しくやっていけそうだ。

「いえ、なんでもありません。それじゃ、私これから行くところがあるので、あとは2人でごゆっくり!」

 2人に背を向け、再び誰もいない廊下を駆け出していく。目的地はそう。校舎の中で、もっとも空が近くに見える場所。