「私は、悠のことを縛っていただけなのかな」
「それは違うね。彼は君のことが好きだった。異性として好きだったから、気付いてしまったんだよ。異性としてみられていない、家族のような存在として認識されていることにね」
そうだった。私は、悠のことを幼馴染でありながら、ずっと家族だと思い込んできた。隣に居て当たり前の存在。それが、悠だった。
その日常がこれから先もずっとずっと続いていくものだと思っていた。変わることなく、私の隣に居続ける関係を。
悠は気付いていたんだ。自分の抱える想いと、私が抱える想いが一致していないことに。
途端に胸がギュッと締め付けられる。きっと、そのことに気付いた時、彼は苦しかっただろう。辛かっただろう。私から距離を取りたかっただろう。
私は何も気が付いてあげることができなかった。常に隣に居て、誰よりも大切な存在の苦しみに。
自分の気持ちを押し殺しながら、大切な人を見つめる気持ちは私にも十分わかる。
この1週間がそうだったように。一体彼はどのくらいの年月、その気持ちをずっと抱え込んで、私に気付かれないように隠し続けてきたのだろうか。
申し訳なさよりも、彼の痛みが全身を駆け巡るようにチクチクと刺さってくる。
「私、悠に謝らないと・・・」
「本当にそれでいいの?」
「え、どうして?謝った方が・・・」
「彼はそんなことを望んではいないと思う気がするけどね」
またわからないことを呟く彼。傷付けたら、謝ることくらい小学生。いや、もっと小さな子でも知っている常識なはずなのに。
染井君には、常識や善良な心が備わっていないのかと、疑問に思ってしまう。
答えがわからず、首を傾げる。
「はぁ〜」
深すぎるため息が彼の口から漏れてゆく。そんなに吐き出したら、幸せもだいぶ逃げていったのではと心配になる。
密かに彼にバレないように、スッと息を吸って彼の幸せを自分に取り込む。
そんな私の些細な動作ですら、彼にはお見通しのようだ。すぐさま眉間に皺がより、顔がさらに険しくなってしまった。
「あのね・・・まぁいいや。さっきの話に戻るけど、彼はこれから先も君とは幼馴染として仲良くしたいんだよ。謝ってしまったら、彼からすると何もかもが否定された気持ちになってしまうよ。君のことを好きだった気持ちも数年間にもわたって、君を想ってきた気持ちも全てを踏み躙ることになる。それでもいいのかい?」
そんなの絶対にいいわけがない。悠とは、これから先もいい関係を築いていきたい。
謝ることができないのであれば、私は一体どうしたらいいのだろう。
何をしたら、前みたいな壁のない関係に戻れるの...
澱んだ不安が私の顔に出ていたのか、彼が私の顔を見てフッと笑った。
「僕がその答えを知っているよ」と今にも言いそうな顔で。
「ねぇ、私はどうしたらいいのかな」
たまらず聞いてしまった。癪に障るが、今は彼を頼るしか現状を打開する方法が見つからないのだ。
満足そうにニヤける彼。あぁ、聞かなければよかったと後悔した。
「正直に君の気持ちを彼に告げてみてはどうかな」
「私の気持ち?」
「そう、君の気持ち。君が彼に抱いている気持ちをそのまま彼に伝えてみる。そうしたら、お互いに今まで拗れていた想いが徐々になくなっていくと思うよ。きっと彼は君からの言葉を待っているよ。長年寄り添ってきた君が1番彼のことを理解しているでしょ?」
そうだ。悠はいつも喧嘩をすると、私と向き合って解決するまで話し合ってくれていた。
どんな時でも、私の側から離れず居てくれた。そんな彼に私は『依存』してしまっていたのだろう。
彼がいることが当たり前の日常に。それが、壊されたのがただただ私は怖かった。そして、奪われたことが何より悔しかったんだ。
まるで、自分の娘が結婚して自分の元を巣立っていく父親と同じように。寂しかったんだ。悠が私のものでなくなってしまうことが。
なんて私は情けない。彼の優しさにつけ込んでいただけだ。
その事実を目の当たりにした私は、空から降ってきた雨に紛れながら静かに頬を伝う涙を流した。
目の前に立っている彼が、そのことに気付いているかはわからない。
ただ彼の私を見つめる眼差しは、冷たい雨とは裏腹に温かいものだった。
「それは違うね。彼は君のことが好きだった。異性として好きだったから、気付いてしまったんだよ。異性としてみられていない、家族のような存在として認識されていることにね」
そうだった。私は、悠のことを幼馴染でありながら、ずっと家族だと思い込んできた。隣に居て当たり前の存在。それが、悠だった。
その日常がこれから先もずっとずっと続いていくものだと思っていた。変わることなく、私の隣に居続ける関係を。
悠は気付いていたんだ。自分の抱える想いと、私が抱える想いが一致していないことに。
途端に胸がギュッと締め付けられる。きっと、そのことに気付いた時、彼は苦しかっただろう。辛かっただろう。私から距離を取りたかっただろう。
私は何も気が付いてあげることができなかった。常に隣に居て、誰よりも大切な存在の苦しみに。
自分の気持ちを押し殺しながら、大切な人を見つめる気持ちは私にも十分わかる。
この1週間がそうだったように。一体彼はどのくらいの年月、その気持ちをずっと抱え込んで、私に気付かれないように隠し続けてきたのだろうか。
申し訳なさよりも、彼の痛みが全身を駆け巡るようにチクチクと刺さってくる。
「私、悠に謝らないと・・・」
「本当にそれでいいの?」
「え、どうして?謝った方が・・・」
「彼はそんなことを望んではいないと思う気がするけどね」
またわからないことを呟く彼。傷付けたら、謝ることくらい小学生。いや、もっと小さな子でも知っている常識なはずなのに。
染井君には、常識や善良な心が備わっていないのかと、疑問に思ってしまう。
答えがわからず、首を傾げる。
「はぁ〜」
深すぎるため息が彼の口から漏れてゆく。そんなに吐き出したら、幸せもだいぶ逃げていったのではと心配になる。
密かに彼にバレないように、スッと息を吸って彼の幸せを自分に取り込む。
そんな私の些細な動作ですら、彼にはお見通しのようだ。すぐさま眉間に皺がより、顔がさらに険しくなってしまった。
「あのね・・・まぁいいや。さっきの話に戻るけど、彼はこれから先も君とは幼馴染として仲良くしたいんだよ。謝ってしまったら、彼からすると何もかもが否定された気持ちになってしまうよ。君のことを好きだった気持ちも数年間にもわたって、君を想ってきた気持ちも全てを踏み躙ることになる。それでもいいのかい?」
そんなの絶対にいいわけがない。悠とは、これから先もいい関係を築いていきたい。
謝ることができないのであれば、私は一体どうしたらいいのだろう。
何をしたら、前みたいな壁のない関係に戻れるの...
澱んだ不安が私の顔に出ていたのか、彼が私の顔を見てフッと笑った。
「僕がその答えを知っているよ」と今にも言いそうな顔で。
「ねぇ、私はどうしたらいいのかな」
たまらず聞いてしまった。癪に障るが、今は彼を頼るしか現状を打開する方法が見つからないのだ。
満足そうにニヤける彼。あぁ、聞かなければよかったと後悔した。
「正直に君の気持ちを彼に告げてみてはどうかな」
「私の気持ち?」
「そう、君の気持ち。君が彼に抱いている気持ちをそのまま彼に伝えてみる。そうしたら、お互いに今まで拗れていた想いが徐々になくなっていくと思うよ。きっと彼は君からの言葉を待っているよ。長年寄り添ってきた君が1番彼のことを理解しているでしょ?」
そうだ。悠はいつも喧嘩をすると、私と向き合って解決するまで話し合ってくれていた。
どんな時でも、私の側から離れず居てくれた。そんな彼に私は『依存』してしまっていたのだろう。
彼がいることが当たり前の日常に。それが、壊されたのがただただ私は怖かった。そして、奪われたことが何より悔しかったんだ。
まるで、自分の娘が結婚して自分の元を巣立っていく父親と同じように。寂しかったんだ。悠が私のものでなくなってしまうことが。
なんて私は情けない。彼の優しさにつけ込んでいただけだ。
その事実を目の当たりにした私は、空から降ってきた雨に紛れながら静かに頬を伝う涙を流した。
目の前に立っている彼が、そのことに気付いているかはわからない。
ただ彼の私を見つめる眼差しは、冷たい雨とは裏腹に温かいものだった。