「この写真、遠藤さんたちに送っていい?」
「え、送るの?」
「いい写真撮れたら送ってって、頼まれてるんだ」
たちってことは、彩と美里か。いつのまにそんなお願いをしていたんだろう。
湊はスマホでも撮っていたらしく、海の中で騒いでいるわたしと先輩の写真を画面に表示させた。撮影技術があるひとが撮る写真は、たとえ被写体がわたしのような人間でも、かっこよく撮れるものらしい。なかなかの仕上がりだ。
「でも先輩とツーショットは……ちょっと荷が重い」
学校の裏庭、バーベキューの準備で忙しくしている写真部のみんなを見ながら、わたしはうなった。顔面偏差値がえぐい。
「駄目なの?」
「いやー……うーん……、まあ、いいよ。許可する」
「そ」
うなずくと、湊は画面を操作した。すると、スマホを持って待ち構えてでもいたんだろうか、というくらいのスピードで、美里から『エモい!』と返信が届いた。すこし遅れて、彩も『制服濡れていいの⁉』『すてきな写真だね』と送ってくる。
「ふたりとも、暇なのかな」
「さあ?」
役目は終えたとばかりに、湊はバーベキューの準備にもどっていく。その背中に、わたしはとっさに声をかけた。
「湊さ、写真好き?」
「好きだよ」
空っぽの言葉だった。そっか、とわたしはあいまいに笑って見送る。
シャワーを浴びたばかりで、まだすこし濡れている髪を手ぐしで整えた。ずぶ濡れになったお古の制服たちは、そのまま破棄するのだそうだ。制服なんてどれも同じ形なのに、自分の制服に袖を通すと、なんだか落ち着いた。
騒ぎながら、ゆっくりと、それでも着実に進んでいく夕食の準備。笑顔の部員たちの中にいても、湊は無表情。笑ったり、泣いたり、そういう湊をわたしは見たことがない。
笑ってほしい。悲しいときは、思いきり泣いてほしい。どうすれば、湊の瞳に感情が宿るだろう。
「のどかちゃん。調理室の手伝いに行ってくれる? まったくもう、うちの部員は野菜を切ることもできないみたいよ」
柊木先輩が腰に手を当ててため息をついた。
「ごめんね、部員じゃないのに、手伝わせて」
「いえいえ。合宿に参加させてもらってる身なので」
「そう言ってもらえると助かる。もう、雲行きも怪しいし、踏んだり蹴ったりだなあ」
先輩の言葉につられて空を見上げると、たしかに雲が空を覆いはじめていた。夕焼けのほの暗い赤が、世界を染めている。星空撮影は無理だろうか。けっこう楽しみにしていたんだけど。
「行ってきますね」
わたしは調理室に向かった。シャッターを切るのに秀でた部員の指たちは、残念ながら、包丁を握ることには向いていなかったらしい。わたしだって料理に慣れているわけじゃないけれど、戦力にはなれたようで安心した。
どっさり山盛りの食材を持って中庭にもどれば、バーベキューがはじまる。このあとは花火大会と星空撮影大会が待っているから、まだ陽が落ちないうちの、早めの夕食だ。
部員ではないという空気感にすこし気詰まりしていたわたしのためか、湊はわたしのとなりに待機している。
「湊って、苦手な野菜とかある?」
「とくにない」
「そうなの?」
湊は考え込む顔をした。私の質問に必死に答えようとするみたいに。
「ピーマンは、ちょっと苦手かも」
「そっか。じゃあ、それ以外で乗せてくね」
トングを使って、金網の上から焼けている食材を湊の紙皿に乗せていく。湊はぼうっとしているから、下手をするとまったく食べないままバーベキューを終えてしまいそうだった。
――先輩、もう、別れようって伝えたのかな。
臆病なわたしは、そんなこと聞けなかったけれど。
「え、送るの?」
「いい写真撮れたら送ってって、頼まれてるんだ」
たちってことは、彩と美里か。いつのまにそんなお願いをしていたんだろう。
湊はスマホでも撮っていたらしく、海の中で騒いでいるわたしと先輩の写真を画面に表示させた。撮影技術があるひとが撮る写真は、たとえ被写体がわたしのような人間でも、かっこよく撮れるものらしい。なかなかの仕上がりだ。
「でも先輩とツーショットは……ちょっと荷が重い」
学校の裏庭、バーベキューの準備で忙しくしている写真部のみんなを見ながら、わたしはうなった。顔面偏差値がえぐい。
「駄目なの?」
「いやー……うーん……、まあ、いいよ。許可する」
「そ」
うなずくと、湊は画面を操作した。すると、スマホを持って待ち構えてでもいたんだろうか、というくらいのスピードで、美里から『エモい!』と返信が届いた。すこし遅れて、彩も『制服濡れていいの⁉』『すてきな写真だね』と送ってくる。
「ふたりとも、暇なのかな」
「さあ?」
役目は終えたとばかりに、湊はバーベキューの準備にもどっていく。その背中に、わたしはとっさに声をかけた。
「湊さ、写真好き?」
「好きだよ」
空っぽの言葉だった。そっか、とわたしはあいまいに笑って見送る。
シャワーを浴びたばかりで、まだすこし濡れている髪を手ぐしで整えた。ずぶ濡れになったお古の制服たちは、そのまま破棄するのだそうだ。制服なんてどれも同じ形なのに、自分の制服に袖を通すと、なんだか落ち着いた。
騒ぎながら、ゆっくりと、それでも着実に進んでいく夕食の準備。笑顔の部員たちの中にいても、湊は無表情。笑ったり、泣いたり、そういう湊をわたしは見たことがない。
笑ってほしい。悲しいときは、思いきり泣いてほしい。どうすれば、湊の瞳に感情が宿るだろう。
「のどかちゃん。調理室の手伝いに行ってくれる? まったくもう、うちの部員は野菜を切ることもできないみたいよ」
柊木先輩が腰に手を当ててため息をついた。
「ごめんね、部員じゃないのに、手伝わせて」
「いえいえ。合宿に参加させてもらってる身なので」
「そう言ってもらえると助かる。もう、雲行きも怪しいし、踏んだり蹴ったりだなあ」
先輩の言葉につられて空を見上げると、たしかに雲が空を覆いはじめていた。夕焼けのほの暗い赤が、世界を染めている。星空撮影は無理だろうか。けっこう楽しみにしていたんだけど。
「行ってきますね」
わたしは調理室に向かった。シャッターを切るのに秀でた部員の指たちは、残念ながら、包丁を握ることには向いていなかったらしい。わたしだって料理に慣れているわけじゃないけれど、戦力にはなれたようで安心した。
どっさり山盛りの食材を持って中庭にもどれば、バーベキューがはじまる。このあとは花火大会と星空撮影大会が待っているから、まだ陽が落ちないうちの、早めの夕食だ。
部員ではないという空気感にすこし気詰まりしていたわたしのためか、湊はわたしのとなりに待機している。
「湊って、苦手な野菜とかある?」
「とくにない」
「そうなの?」
湊は考え込む顔をした。私の質問に必死に答えようとするみたいに。
「ピーマンは、ちょっと苦手かも」
「そっか。じゃあ、それ以外で乗せてくね」
トングを使って、金網の上から焼けている食材を湊の紙皿に乗せていく。湊はぼうっとしているから、下手をするとまったく食べないままバーベキューを終えてしまいそうだった。
――先輩、もう、別れようって伝えたのかな。
臆病なわたしは、そんなこと聞けなかったけれど。