私の暮らす県内のとある市主催のイベントで、恋愛・婚活関連の無料セミナーが開催されることになった。そこに講師として派遣されたのは、恋愛コンサルタントのKさん。
私は過去に一度電話相談をしたことがあり、その時に今回のセミナーの案内を受け、参加を決めた。そして、この日Kさんと直接会うのは初めてだった。Kさんを知るきっかけになったのは、一冊の本だった。そこからブログに飛び、「やべぇ、めっちゃ面白い! しかもわかりやす!」とドハマリ。喝を入れてもらおうと思い2時間の電話相談に申し込んだのがきっかけだった。
今思えば、彼女に出会わなければ、私は結婚どころか自立すらできなかったかもしれない。なぜなら、恋愛相談のつもりで申し込んだのに、「実家を出て一人暮らしした方がいい」と言われ、「?」になった。
「でも、これまで何度出ようとしたけど反対されて……」と言おうものなら、「もう親の許可がいる年齢じゃないでしょ? 自分のことなんだから、自分で決めないと。第一その歳でまだ親と一緒に住んでるってやばいよ。結婚する予定があるならまだしも、彼氏すらいないなら尚更 。自立していない女がいくら着飾って婚活に奮闘したところで、本気で結婚したいって思ってもらえると思う? 自分がもし選ぶ立場なら、今の自分と結婚したいって思う?」と自立を促される。
これが私にとっては一番の特効薬だった。
その2年後に私は実家を出て一人暮らしを実現させたのだが、やってみると案外簡単にできるものだと知った。
そしてKさんと初対面。
「可憐さん? 嘘! こんなかわいい子だとは思わなかった!」
どんな子だと思われてたんだろう、と疑問は残ったが、セミナーはくじで決めたテーブルについて約2時間のうち1時間は各テーブルごとにディスカッションするという形式だった。レジュメを配られ、Kさんが解説をする。
そして、演習スタート。
「次の三人の女性をデートに誘うとしたら、マック・モスバーガー・おしゃれなカフェ、どこに連れていきますか? それぞれ違う場所を当てはめて」
①眉毛とチークだけつけた顔、髪は後ろで一つにまとめ、カーディガンはすべてのボタンを留めている女性
②ギラギラしたアイシャドウ、細いつり上がった眉毛、口紅はヌーディーなベージュ、ひらひらのスカーフみたいな襟の付いた派手な柄のブラウスを着た女性
③前髪を横に流し、毛先は緩めの内巻きにカール、優しい緩やかなカーブの眉毛、控えめなアイシャドウにほんのり色づいたチーク、薄付きのファンデ、清潔感のあるブラウスにジャケットを着た女性
モデルはすべてKさん。体張ってここまでやるのは相当な気合いと根性、情熱がないとできない。
「同じ女性でも、メイクや服、表情でこんなにも印象が変わるということがわかると思います。ちなみに、今の自分はどの女性のパターンですか? これは男性にも同じことが言えます。自分は選ぶ立場なんて思い上がってたら、誰からも選ばれません」
★恋愛婚活無料セミナー★
①36歳(電気関係、高卒)
→寝起きみたいなボサボサ頭、眼鏡にスウェット風の毛玉だらけのダボッとした服、口を開けるたびに漂う悪臭。とにかくクサい馴れ馴れしい太めの男。セミナーの途中に他のテーブルから人数調整のため移動してきた。相当クサかったので、椅子を少しずつ下げて臭いが気にならないくらいの位置で固定してたら、前のめりになって話しかけてきたので蹴飛ばしそうになった。
話していても「俺見た目とか気にしないからこだわる理由がわからん」とか、「マックでいいやん。気軽に行けるほうがこっちも楽やし」「これ何の意味があるの? やってる意味がよくわからんし、つまらんよね。帰りたくなってきた」「それより他の婚活パーティー行ってたほうが楽しい」等デリカシーのないことをベラベラ喋り倒すばかりで、グループ内のディスカッション中も終止浮いていた。
帰り際、私が別の参加者と話していたら急に割り込んできて「俺県内の婚活パーティー全制覇した」と謎の自慢をしてきた。制覇ってどういうことか聞いてみたら、「参加したことがある」だけだった。しかも、「〇〇市のイベントは料理付きで楽しかった。パンフレット持ってるからあげようか?」と悪臭漂わせて近づいてきたので「要りません」と鼻から下を手で覆い隠しながら突っぱねた。
別の意味で強烈な男だった。
②34歳(フリーター?、高卒)
→帰り際に駐車場で声をかけられた。違うテーブルだったが、一見どこにでもいそうなフツメン。少しやんちゃしてる感じは出ていた(車が改造車っぽい)。職業は不明だが、「バイト」と言っていたような気がするのでフリーター扱い。またこの彼も「??」となるほどぶっ飛んだ思考で話がまるで噛み合わなかった。
「婚活パーティーに来る人は結婚を考えた真面目な人ばかりだから100%安全」「よかったら今度〇〇市のイベントに一緒に参加しませんか?」と。
私が、「そういうイベントに誘うのっておかしくないですか?カフェとかレストランならわかるけど」と突っ込んだら、「そんな怖いことできない」「だってイベントの中のほうが安全じゃないですか?」「騙されたりするかもしれないじゃないですか」と謎の警戒。そんなんで今まで成果あったのか聞いたら「もちろんあります」と自信満々に答えた。聞くと、「僕が友達誘ったら、その友達が見事にマッチングして、その後付き合うことになりました」云々。
多分友達の恋の成就のきっかけを作ったことを自慢したいのかもしれないが、私が聞きたいのはそういうことではなくてだな。
「だから、婚活パーティーは安全安心なんですよ」
頭がおかしくなりそうで、これ以上関わりたくなかったので「そうですね」と流したら、「でしょ? だから一緒に参加しませんか?」とまるで話が通じない。
「遠慮します。その先なさそうなので」
「え、何でですか? 出会いのチャンスがたくさんあるんですよ」
そのチャンスをみすみす棒に振り続けてることになぜ気が付かんのだろう。
「えー、もったいない。絶対来たほうがいいのに」
絶対行かないほうがいいと本能が叫んでるからいきません。
上記の2名について、後でKさんに報告。
「えー! てっきり連絡先交換でもしてるのかなって思ったのに、そんなことが起こってたんだ。何のために来たんだろう……ヤバいね、その二人」
ですよね。
婚活を始めて半年足らずの出来事。
婚活の底なし沼を垣間見たような気がして、一刻も早く彼らと同じフィールドから抜け出したい、という感情が湧いたことも、ある意味婚活のモチベーションになったように思う。
県内に住んでいる以上、どこかの会場で再会するリスクを考えると、手当たり次第に参加しまくるのは危険だと思い、この頃からパーティーに参加する回数を減らし、絶対に参加しなさそうな内容のところを選んで行くようにした。
後日談。この二人ではない別の男性参加者が、イベント当日にある女性に連絡先を聞いたら断られたと憤慨。彼が電話をかけたのは、主催した市の担当課。
「気になる人の連絡先を聞いたら断られた。お前らのサービスが行き届いていないせいだ。こっちは税金払ってやってるんだからもっと市民へのサービスを充実させろ。全然婚活支援になっていない」
とかいう文句を延々と言っていたとKさん経由で聞いた。
「自分のせいだって自覚ないなんて、ヤバい通り越して呆れ果てるよね。市役所の人可哀想すぎる……。お客さま感覚でよく結婚相談所にも『自分を結婚させてみろ』って煽る○○もいるけど、無料でここまでしてもらっといてうまく行かないからって人のせいにするなんて、結婚どころか人としてどうなのって感じ……。私、何のために行ったんだろう。悲しいわぁ」
「うわあ……。しかも税金払ってやってるって謎の上から目線。 そもそも納税は国民の義務だって知らんのですかね。何て身の程知らずな……。」
「〇〇市だけにね」
「ですね。Kさん、私絶対婚活成功させます」
「うん、頑張って。これからいろんなおかしなやつがいっぱいいると思うけど、負けずに納得のいく相手見つけて」
身の程知らずな婚活難民にだけはなりたくない。業界用語では「不良在庫」というらしい。なるほど。
そして、舞台は次のステージへ。