そうして迎えた週末、卓己と千鶴ちゃんの三人で充さんの別荘へ向かう。
何度も何度も日記を読み返し、重要な所は抜き出してメモにとっていた。
キリンと、ダチョウ。
二人だけの秘密基地。
そのメモと日記を片手に、二階の子供部屋を捜索する。
「そう言われれば、父さんから宝探しだって言われたことを、思い出したよ」
そういう重要案件は、早めに報告してほしかったな。
卓己に肩をかしてもらって、久しぶりに二階に上がってきたという充さんは、懐かしそうに子供部屋を見渡した。
「よくこの部屋で、遊び疲れて寝落ちしてたんだ」
千鶴はおもちゃ箱の中身をひっくり返し、それを一つ一つ確認しながら片付けている。
「もーやだぁ、ほこりっぽーい!」
「いい? キリンとダチョウだからね!」
「はーい」
私は床の上を丹念に調べていて、卓己は天井を見ている。
どうしてキリンとダチョウに鍵を託そうと思ったのか分からないが、背の高い生き物というのが、1つのヒントになっているような気がする。
「おもちゃ箱のなかには、キリンとかダチョウのぬいぐるみはなーい!」
「天井と棚にも、関係しそうなものはないよ」
床に敷かれたカーペットにも、それらしき絵柄はないし、それをめくったところで、落書きやヒントになりそうな印もなかった。
「充さん。キリンとダチョウと聞いて、なにか思い出すことはないですか?」
「う~ん、そうだなぁ。特にこれといってなにも……」
そう言うと彼は、千鶴から一冊の絵本を受け取る。
「うわー懐かしい! この本はアニタが大好きで、よく読んでたんだ」
アニタというのは、灯台から落ちて亡くなった女の子の名前だ。
「アニタはとってもイタズラ好きでね、寝なさいって言われても、素直に寝るような女の子じゃなかったんだ」
彼はゆっくりと、絵本のページをめくる。
「それで、この本をよく子供部屋から寝室にもちこんで、ベッドの下に隠れて、二人で読んでたんだ」
「ベッドの下?」
「夜の間のね、二人だけの秘密の隠れ場所だったんだ」
「秘密の隠れ場所って……。そこだ!」
すぐに私たちは、二階の一番東にある北側の部屋へ向かった。
そこには大きなダブルベッドが1つ置かれている。
「まだ小さかった頃は、ここで一緒に寝てたんだ。大人になってからは、それぞれ別になったけど」
私はベッドの下をのぞき込んだ。
比較的脚の長いベッドとはいえ、大人がもぐり込むには狭すぎる。
「ちょっと、掃除機をおかりしてきてもいいですか?」
私が掃除機を運んでくる間に、千鶴は窓を開けて、空気を入れかえてくれていた。
ベッド下に丹念に掃除機をかけてから、私はシャツの袖をめくる。
「え? 紗和ちゃん、本気でもぐり込むの?」
千鶴が変な声を出したけど、私は本気だ。
「当ったり前よ!」
さっさとおじいちゃんの作品を手に入れて、こんな半分大掃除みたいな謎解き、すぐに終わらせてやるんだから!
幸いベッドの下には蜘蛛の巣とかそんなものはなくて、比較的きれいな状態が保たれていた。
ずるずると這いつくばって進んでも、床にはなにもない。
「ほ、方向転換が出来ないんだけど……」
「さ、紗和ちゃん。仰向けにひっくり返ってみたら?」
「仰向け?」
ゴロリと体を回転させる。
その途端、私は入ってきた光景に目を丸くした。
「なにこの落書き!」
ベッドの床板には、クレヨンやマジックで描かれた、大量の落書きが残されていた。
夏の別荘でまだまだ遊び足りない子供たちが、ここでひっそり、こそこそ、くすくす、楽しいおしゃべりをしながら、長い夜を過ごしたに違いない。
「えー。どれどれ? どんなになってんの?」
卓己もベッドの下にもぐり込んできた。
「ほら見て卓己。なんかコレ、可愛いくない?」
小さな男の子と女の子が縄跳びをして遊ぶ絵を指差すと、卓己は笑ってその絵にそっと触れた。
「懐かしいね。僕たちもよく、こういうことを内緒でやってたよね」
「まだ使ってるじゃない、あのテーブル」
テーブルとかベッドの下って、子供にはちょうど潜り込みやすいサイズだけど、大人は普段入ってこない場所だ。
私と卓己も、普通の紙やキャンバスでないところに、絵を描くことを楽しむ頃があった。
落書きって、大人にバレないようなところに描くから楽しいんだ。
今も我が家のキッチンで使われている食卓の裏には、私と卓己が描いたワケの分からない落書きが残されている。
その1つ1つが、大切な思い出だ。
「見て、紗和ちゃん。ここに動物園があるよ」
「本当だ」
それにしても、芸術家の血を引く子供同士なだけあって、とても絵が上手い。
たくさんの動物たちが一頭ずつ檻に囲まれた中に、キリンとダチョウが……あった!
何度も何度も日記を読み返し、重要な所は抜き出してメモにとっていた。
キリンと、ダチョウ。
二人だけの秘密基地。
そのメモと日記を片手に、二階の子供部屋を捜索する。
「そう言われれば、父さんから宝探しだって言われたことを、思い出したよ」
そういう重要案件は、早めに報告してほしかったな。
卓己に肩をかしてもらって、久しぶりに二階に上がってきたという充さんは、懐かしそうに子供部屋を見渡した。
「よくこの部屋で、遊び疲れて寝落ちしてたんだ」
千鶴はおもちゃ箱の中身をひっくり返し、それを一つ一つ確認しながら片付けている。
「もーやだぁ、ほこりっぽーい!」
「いい? キリンとダチョウだからね!」
「はーい」
私は床の上を丹念に調べていて、卓己は天井を見ている。
どうしてキリンとダチョウに鍵を託そうと思ったのか分からないが、背の高い生き物というのが、1つのヒントになっているような気がする。
「おもちゃ箱のなかには、キリンとかダチョウのぬいぐるみはなーい!」
「天井と棚にも、関係しそうなものはないよ」
床に敷かれたカーペットにも、それらしき絵柄はないし、それをめくったところで、落書きやヒントになりそうな印もなかった。
「充さん。キリンとダチョウと聞いて、なにか思い出すことはないですか?」
「う~ん、そうだなぁ。特にこれといってなにも……」
そう言うと彼は、千鶴から一冊の絵本を受け取る。
「うわー懐かしい! この本はアニタが大好きで、よく読んでたんだ」
アニタというのは、灯台から落ちて亡くなった女の子の名前だ。
「アニタはとってもイタズラ好きでね、寝なさいって言われても、素直に寝るような女の子じゃなかったんだ」
彼はゆっくりと、絵本のページをめくる。
「それで、この本をよく子供部屋から寝室にもちこんで、ベッドの下に隠れて、二人で読んでたんだ」
「ベッドの下?」
「夜の間のね、二人だけの秘密の隠れ場所だったんだ」
「秘密の隠れ場所って……。そこだ!」
すぐに私たちは、二階の一番東にある北側の部屋へ向かった。
そこには大きなダブルベッドが1つ置かれている。
「まだ小さかった頃は、ここで一緒に寝てたんだ。大人になってからは、それぞれ別になったけど」
私はベッドの下をのぞき込んだ。
比較的脚の長いベッドとはいえ、大人がもぐり込むには狭すぎる。
「ちょっと、掃除機をおかりしてきてもいいですか?」
私が掃除機を運んでくる間に、千鶴は窓を開けて、空気を入れかえてくれていた。
ベッド下に丹念に掃除機をかけてから、私はシャツの袖をめくる。
「え? 紗和ちゃん、本気でもぐり込むの?」
千鶴が変な声を出したけど、私は本気だ。
「当ったり前よ!」
さっさとおじいちゃんの作品を手に入れて、こんな半分大掃除みたいな謎解き、すぐに終わらせてやるんだから!
幸いベッドの下には蜘蛛の巣とかそんなものはなくて、比較的きれいな状態が保たれていた。
ずるずると這いつくばって進んでも、床にはなにもない。
「ほ、方向転換が出来ないんだけど……」
「さ、紗和ちゃん。仰向けにひっくり返ってみたら?」
「仰向け?」
ゴロリと体を回転させる。
その途端、私は入ってきた光景に目を丸くした。
「なにこの落書き!」
ベッドの床板には、クレヨンやマジックで描かれた、大量の落書きが残されていた。
夏の別荘でまだまだ遊び足りない子供たちが、ここでひっそり、こそこそ、くすくす、楽しいおしゃべりをしながら、長い夜を過ごしたに違いない。
「えー。どれどれ? どんなになってんの?」
卓己もベッドの下にもぐり込んできた。
「ほら見て卓己。なんかコレ、可愛いくない?」
小さな男の子と女の子が縄跳びをして遊ぶ絵を指差すと、卓己は笑ってその絵にそっと触れた。
「懐かしいね。僕たちもよく、こういうことを内緒でやってたよね」
「まだ使ってるじゃない、あのテーブル」
テーブルとかベッドの下って、子供にはちょうど潜り込みやすいサイズだけど、大人は普段入ってこない場所だ。
私と卓己も、普通の紙やキャンバスでないところに、絵を描くことを楽しむ頃があった。
落書きって、大人にバレないようなところに描くから楽しいんだ。
今も我が家のキッチンで使われている食卓の裏には、私と卓己が描いたワケの分からない落書きが残されている。
その1つ1つが、大切な思い出だ。
「見て、紗和ちゃん。ここに動物園があるよ」
「本当だ」
それにしても、芸術家の血を引く子供同士なだけあって、とても絵が上手い。
たくさんの動物たちが一頭ずつ檻に囲まれた中に、キリンとダチョウが……あった!