教室に着く頃には、クラスメイトが皆席に着席をしていた。
胸には白い桜の花のコサージュ。僕らの門出を祝い、後押しの意味合いを持つアイテム。
「いやー、あぶねぇ! 卒業式に遅刻するとこだった!」
「3年間で1番走ったかも・・・」
「わかる! 部活よりもきつかったわ。にしても俺らも部活やめてから体力落ちたな」
僕らは、今年の9月に正式に部活を引退した。他の運動部が受験勉強に励んでいる中、僕らはまだ部活をしていた。
サッカーは冬に開催される高校選手権がある。高校総体よりもこちらの方が、サッカーをする高校生からすると、夢の舞台であるのだ。
野球で例えると、春と夏の甲子園の盛り上がりの違いくらい。
予選が9月だったため、僕ら3年生は残る必要があった。結果は、準優勝だった。
夢の全国大会への切符は、あと一歩のところで届かなかった。
試合は延長戦まで決着が付かず、勝敗はPK戦へと持ち込まれた。
どちらの高校も外すことなく、相手が5本ゴールを決めリードしている状況で、回ってきたキッカーは当時のキャプテンの僕だった。
決めれば、サドンデス。外せば試合終了。
思い出すだけで、あの時の緊張が蘇ってくる。吐きそうになる程のプレッシャー。
周囲の視線やスタジアム全体に響き渡る歓声。震えていた。僕もスタジアムも。
審判の笛が吹かれた瞬間、僕の耳からは一切の音が消えたんだ。怖かった。
もう何もわからないくらい、何も感じられなかった。
とにかく枠内に入れることに必死だった。蹴ったボールは、必要以上に力んだせいかゴールの枠を捉えることなく、枠の外へと飛んでいった。
その瞬間、僕らの3年間は幕を下ろした。僕がキャプテンになって積み上げてきた最高のチームを僕の右足が終わらせた。
「懐かしいな」
「そうだなぁ。俺、めっちゃ泣いた記憶あるわ。それでも覚えてる。唯一真也だけが泣いてなかった。いや、泣けてなかった」
「泣きたかったんだけどね。自分を責めすぎるあまり泣けなかったんだよな。みんなに合わせる顔がなくて・・・でも、みんなの元へ戻ったら泣きながら迎え入れてくれて・・・」
「真也がいなかったら、俺ら準優勝すらできなかったからな。悔しかったけど、全部真也のおかげなんだよ」
「それは違うけど、いい思い出だった。あのメンバーで過ごした3年間は」
「間違いないな!」
「ちょっと! そこの2人! せっかくの卒業式の日になんでそんなしんみりしてるわけ? これから晴れ舞台なんだから、もっと明るくしなさいよ!」
僕らの間に割り込んでくる姫花。
「おう、朝から元気そうだな!」
「ほら、コサージュつけるから動かないで」
安全ピンで恭太の胸元にコサージュをつけてあげる彼女。
まるで、数年後の姿を間近で見ている気分。将来はコサージュではなく、ネクタイだろうけれど。
「よし! これでオッケー!真也くんもつけてあげようか?」
「いや、僕は自分でつけるよ」
彼女からコサージュを受け取り、胸ポケットにそっと入れておく。
欲を言えば、彼女につけてもらいたかった。でも、僕は負けなかった。
分かってる。一時の欲は、後に後悔と虚しさを運んでくることぐらい、僕はもう知っているんだ。
胸にある作り物の桜から甘い香りがした気がした。
胸には白い桜の花のコサージュ。僕らの門出を祝い、後押しの意味合いを持つアイテム。
「いやー、あぶねぇ! 卒業式に遅刻するとこだった!」
「3年間で1番走ったかも・・・」
「わかる! 部活よりもきつかったわ。にしても俺らも部活やめてから体力落ちたな」
僕らは、今年の9月に正式に部活を引退した。他の運動部が受験勉強に励んでいる中、僕らはまだ部活をしていた。
サッカーは冬に開催される高校選手権がある。高校総体よりもこちらの方が、サッカーをする高校生からすると、夢の舞台であるのだ。
野球で例えると、春と夏の甲子園の盛り上がりの違いくらい。
予選が9月だったため、僕ら3年生は残る必要があった。結果は、準優勝だった。
夢の全国大会への切符は、あと一歩のところで届かなかった。
試合は延長戦まで決着が付かず、勝敗はPK戦へと持ち込まれた。
どちらの高校も外すことなく、相手が5本ゴールを決めリードしている状況で、回ってきたキッカーは当時のキャプテンの僕だった。
決めれば、サドンデス。外せば試合終了。
思い出すだけで、あの時の緊張が蘇ってくる。吐きそうになる程のプレッシャー。
周囲の視線やスタジアム全体に響き渡る歓声。震えていた。僕もスタジアムも。
審判の笛が吹かれた瞬間、僕の耳からは一切の音が消えたんだ。怖かった。
もう何もわからないくらい、何も感じられなかった。
とにかく枠内に入れることに必死だった。蹴ったボールは、必要以上に力んだせいかゴールの枠を捉えることなく、枠の外へと飛んでいった。
その瞬間、僕らの3年間は幕を下ろした。僕がキャプテンになって積み上げてきた最高のチームを僕の右足が終わらせた。
「懐かしいな」
「そうだなぁ。俺、めっちゃ泣いた記憶あるわ。それでも覚えてる。唯一真也だけが泣いてなかった。いや、泣けてなかった」
「泣きたかったんだけどね。自分を責めすぎるあまり泣けなかったんだよな。みんなに合わせる顔がなくて・・・でも、みんなの元へ戻ったら泣きながら迎え入れてくれて・・・」
「真也がいなかったら、俺ら準優勝すらできなかったからな。悔しかったけど、全部真也のおかげなんだよ」
「それは違うけど、いい思い出だった。あのメンバーで過ごした3年間は」
「間違いないな!」
「ちょっと! そこの2人! せっかくの卒業式の日になんでそんなしんみりしてるわけ? これから晴れ舞台なんだから、もっと明るくしなさいよ!」
僕らの間に割り込んでくる姫花。
「おう、朝から元気そうだな!」
「ほら、コサージュつけるから動かないで」
安全ピンで恭太の胸元にコサージュをつけてあげる彼女。
まるで、数年後の姿を間近で見ている気分。将来はコサージュではなく、ネクタイだろうけれど。
「よし! これでオッケー!真也くんもつけてあげようか?」
「いや、僕は自分でつけるよ」
彼女からコサージュを受け取り、胸ポケットにそっと入れておく。
欲を言えば、彼女につけてもらいたかった。でも、僕は負けなかった。
分かってる。一時の欲は、後に後悔と虚しさを運んでくることぐらい、僕はもう知っているんだ。
胸にある作り物の桜から甘い香りがした気がした。