全員の手に卒業証書が渡り、いよいよ本当に最後を迎えようとしている僕ら。

 一旦涙は止まったものの、またしても涙腺が崩壊してしまった人たちを横目に先生を見つめる。

 クラス全員の顔を確かめるように見渡してから先生は笑った。

「先生ね、お別れは嫌いなの!だから手短に・・・みんな元気で! そして、また会おうね!」

 曇りのない表情で先生は、僕らの前に立っている。その姿は、僕らの門出を祝う顔にふさわしかった。

「全員起立!」

 先生の声に皆が、思い思いに立ち上がる。

 泣いているもの、笑っているもの、我慢しているもの。皆それぞれ思っていることは違うが、この瞬間を共に過ごしている。

 それだけで、僕は心がいっぱいになった。

 明日には、もう会えなくなる友達もいるんだ。そう思うだけで、急に寂しさが込み上げてくる。

「最後の挨拶だよ。元気よく行こうね!」

 止まることがない時間。別れは目前。でも、誰1人として止めるものはいない。

 明日という未来に進むために、僕らは新たなスタートを切る。

「注目。さようなら!」

『さようなら!』

 割れんばかりの七色の声が、狭い教室に響き渡る。他のどのクラスよりも高らかに、元気よく。

 これでとうとう僕らは、卒業してしまった。

 確かな実感はないが、徐々に徐々にこの気持ちが現実を帯び始めるだろう。

「最後にみんなで写真撮ろうよ!」

 誰かが発した言葉に皆が賛同する。形として残る思い出も一つくらいは欲しいから。

 先生が指示することなく、各自均等にバラけて配置に付く。

 先生を真ん中に左側が女子、右側が男子と綺麗に二分される。

 女子たちは皆、胸に卒業証書を掲げているのに対し、男子は机の上に置いてきてしまったのか誰1人として卒業証書を手にしている者はいない。

 これが、写真写りを意識する女子とただこの瞬間を写真に収めたいと考える男子の違いなのだろう。

 無事に写真を撮り終え、クラスのグループトークに貼られた写真を確認するみんな。

 みんな笑顔だった。中には、カメラを見ずに隣の友達と笑い合っている男子もいるが、これはこれで青春らしくていい。

 僕も恭太と話している横顔を撮られたせいか、顔がイマイチはっきりと写っていない。

 姫花を探すと、一瞬で見つかった。僕が姫花に恋をしているからなのか、それとも彼女が目立つ容姿をしているからなのかはわからない。

 ただ純粋に写真に写る彼女に惹かれてしまった。

 僕が写真を眺めている間に、続々と教室を出て行ってしまうクラスメイトたち。

 いや、教室を出たらもうクラスメイトですら無くなってしまうのか。

 あんなに広かった教室が、狭く感じてしまうなんて。

「真也、姫花! 一緒に帰ろうぜ!」

「うん! 3人で帰ろ!」

「真也?」

 先生に近づいていく僕。どうしても最後に聞きたいことがあった。

 今しか聞くことができないことを。

「先生」

「ん? どうしたの?」

「先生は泣かないんですか?」

 ずっと楽しそうに笑う先生を見て、僕は疑問に思った。先生だって僕らのことを1年生の時から見ているんだ。

 何も思わないはずがない。涙のひとつくらいあっても...

「ふふっ。野暮な質問だね。泣かないよ。先生はね、みんながいなくなった後に1人で教室で泣くのが、先生の見送り方なんだ。だから、今は泣きません!」

「先生・・・」

 先生の言葉に僕が泣いてしまいそうになった。かっこいいと思った。

 皆には知られず、1人で教室に残って泣くなんて。

「ほら、帰った帰った! そうしないと、先生涙流せなくて辛いからさ!」

 背中を押してくる先生の目に涙が既に溜まっていたのは、僕の見間違いだったのだろうか。