無事に式は終了し、僕らは自分達の教室へと戻ってきた。
もう既に顔が涙で埋め尽くされている人たちも何人かいる模様。
着物に身を包んだ担任の中川先生が、1番最後に教室に入る。
各々自分の席に着席をし、とうとう高校生活最後のホームルームが始まろうとしていた。
毎日していたホームルームがこんなにも感傷的な気分になるとは思ってもいなかった。
「みんな、まだ別れの挨拶はしないよ!これから卒業証書を1人ずつ先生から渡します。名前を呼ばれたら、前へ来てください」
出席番号1番から順に中川先生に呼ばれ、前へと出ていく。
先生から生徒へ一言。そして、生徒から先生への感謝の気持ちを述べ、次の生徒へ。
「桜庭姫花さん」
「はい」
席を立ち上がり、先生の目の前へと向かう彼女。一瞬たりとも僕は彼女から目を離したりはしない。
今日だけは、絶対に...
「答辞お疲れ様でした。素晴らしかったわ。先生ちょっと泣いてしまったもの。いいですか、あなたは人を照らす力があります。これから先も多くの人を助け、手本のような人になってね。応援しています。卒業おめでとう!」
「ありがとうございます。私も3年間担任が先生でよかったです。時々、恭太の愚痴を聞いてもらってありがとうございました。先生大好き!」
中川先生に抱きつく姫花。感動的な場面...
「うぉい! 愚痴ってなんだ! 先生にそんなこと話してたのか〜!」
こうなることくらい誰にでも予想はできた。椅子から立ち上がり、元気に声を上げる恭太。
恭太の言葉にしんみりとしていた教室に、ドッと笑いが巻き起こる。
「うん。ムカついた時は先生に話聞いてもらってたの! 女同士の秘密ってやつよ!」
「な、俺だってな。真也に聞いてもらってたんだからな!」
突如出てきた僕の名前。予想外すぎて、空いた口が塞がらない。
頼むから僕を巻き込まないでくれ。
「はいはい。そこまでよ2人とも。ありがとね、みんなを笑わせてくれて。それじゃ、次は佐々木恭太くん」
「はい!」
意気揚々と教卓の前へと前進していく恭太。
不思議と恭太の後ろ姿は、人々を勇気づける力があると思う。
どこまでも純粋で、染まることのない綺麗なオレンジ色の彼。
恭太が僕の親友で良かったとこの3年間で何度思ってきたことか。
彼は知らないだろう。もう一つの想いにも...
「恭太くん。あなたはいつもクラスのムードメーカーとして、皆を明るく笑わせてくれたね。先生もそのうちの1人でした。これからも多くの人と関わり、笑顔にしていきなさい。あなたの最大の魅力を伝えるといいわ。卒業おめでとう!」
「ありがとう、先生!先生も笑いすぎて、ぎっくり腰にならないようにね」
「こら!先生はまだ20代よ。馬鹿にしないで!」
2人のやりとりに和やかな空気が流れる。
きっとみんな思っているのだろう。このやりとりを見るのは、これが最後なのだと。
僕らは同じクラスで1年を過ごした。運命ではなく、偶然にも僕らは同じ時を過ごす電車に乗ったのだ。
帰りの電車はない片道切符の電車に。
1人また1人と次々に各停車駅で降りていく。この中には、一生関わることのない人が何人もいるだろう。
しかし、これが人生だと僕は思う。
高校を卒業したら、今度は違う電車に乗り、そこで居合わせた人たちと時間を共にする。そして、数年後また別れる。
人生はこれの繰り返しでできているのでなないだろうか。
その時の自分に利益がある人たちと過ごす。薄情な考えかもしれないが、現実はきっとそうだ。
悪いことだとは思わない。無意識のうちに人は、そのように過ごしているのだ。
現に高校に入学した頃に連絡を取っていた中学の友達とは、1年生の夏頃には誰1人として連絡をとることは無くなっていた。
初めは慣れない環境で、毎日のように連絡を取り合い、中学の思い出話に花を咲かせていた。
でも、気付いたら僕の携帯のトーク画面は高校の友達で埋め尽くされていたんだ。
だから、今日僕も一生の別れを告げる。これから先の人生で会うことのないみんなへと。
「・・・やくん。佐藤真也くん!」
「あ、はい!」
すっかり自分の番だったことを忘れてしまっていた。慌てて教卓の前に向かう。
「落ち着いて、大丈夫だから」
「はい」
「真也くん。あなたは大変よく頑張りました。勉強や部活動。どれをとってもあなたはみんなのお手本のような存在です。完璧と言いたいところですが・・・」
耳を貸しなさいと手でジェスチャーをしている先生。一歩先生に近づき、耳を傾ける。
「まだ伝えていない想いは、最後に伝えてみたら?」
衝撃的な言葉に一瞬で身を引いてしまう。
どうして、先生が僕の想いに気がついているのだろうか。
「せ、先生どうして・・・」
「これでも私は、あなたの担任を3年間務めてきましたから。頑張れ!そして、卒業おめでとう!」
「先生、僕もあなたが3年間担任でよかったです。それと・・・」
今度は僕の方から歩み寄り先生の耳元でそっと囁く。
「先生も彼氏さんとお幸せに」
驚いた顔をした先生だったが、すぐに余裕の表情に顔を変える。18歳の僕とは違う。さすが、大人って感じだ。
「いないわよ。生意気ね・・・」
不敵に笑う先生の顔に不覚にもドキッとしてしまった。
先生の白く小さな手から卒業証書を受け取る。
高校3年分の重みは意外にも軽かった。
自分の席に戻る途中、窓の外に見えた桜吹雪は少しだけ寂しく見えてしまった。
もう既に顔が涙で埋め尽くされている人たちも何人かいる模様。
着物に身を包んだ担任の中川先生が、1番最後に教室に入る。
各々自分の席に着席をし、とうとう高校生活最後のホームルームが始まろうとしていた。
毎日していたホームルームがこんなにも感傷的な気分になるとは思ってもいなかった。
「みんな、まだ別れの挨拶はしないよ!これから卒業証書を1人ずつ先生から渡します。名前を呼ばれたら、前へ来てください」
出席番号1番から順に中川先生に呼ばれ、前へと出ていく。
先生から生徒へ一言。そして、生徒から先生への感謝の気持ちを述べ、次の生徒へ。
「桜庭姫花さん」
「はい」
席を立ち上がり、先生の目の前へと向かう彼女。一瞬たりとも僕は彼女から目を離したりはしない。
今日だけは、絶対に...
「答辞お疲れ様でした。素晴らしかったわ。先生ちょっと泣いてしまったもの。いいですか、あなたは人を照らす力があります。これから先も多くの人を助け、手本のような人になってね。応援しています。卒業おめでとう!」
「ありがとうございます。私も3年間担任が先生でよかったです。時々、恭太の愚痴を聞いてもらってありがとうございました。先生大好き!」
中川先生に抱きつく姫花。感動的な場面...
「うぉい! 愚痴ってなんだ! 先生にそんなこと話してたのか〜!」
こうなることくらい誰にでも予想はできた。椅子から立ち上がり、元気に声を上げる恭太。
恭太の言葉にしんみりとしていた教室に、ドッと笑いが巻き起こる。
「うん。ムカついた時は先生に話聞いてもらってたの! 女同士の秘密ってやつよ!」
「な、俺だってな。真也に聞いてもらってたんだからな!」
突如出てきた僕の名前。予想外すぎて、空いた口が塞がらない。
頼むから僕を巻き込まないでくれ。
「はいはい。そこまでよ2人とも。ありがとね、みんなを笑わせてくれて。それじゃ、次は佐々木恭太くん」
「はい!」
意気揚々と教卓の前へと前進していく恭太。
不思議と恭太の後ろ姿は、人々を勇気づける力があると思う。
どこまでも純粋で、染まることのない綺麗なオレンジ色の彼。
恭太が僕の親友で良かったとこの3年間で何度思ってきたことか。
彼は知らないだろう。もう一つの想いにも...
「恭太くん。あなたはいつもクラスのムードメーカーとして、皆を明るく笑わせてくれたね。先生もそのうちの1人でした。これからも多くの人と関わり、笑顔にしていきなさい。あなたの最大の魅力を伝えるといいわ。卒業おめでとう!」
「ありがとう、先生!先生も笑いすぎて、ぎっくり腰にならないようにね」
「こら!先生はまだ20代よ。馬鹿にしないで!」
2人のやりとりに和やかな空気が流れる。
きっとみんな思っているのだろう。このやりとりを見るのは、これが最後なのだと。
僕らは同じクラスで1年を過ごした。運命ではなく、偶然にも僕らは同じ時を過ごす電車に乗ったのだ。
帰りの電車はない片道切符の電車に。
1人また1人と次々に各停車駅で降りていく。この中には、一生関わることのない人が何人もいるだろう。
しかし、これが人生だと僕は思う。
高校を卒業したら、今度は違う電車に乗り、そこで居合わせた人たちと時間を共にする。そして、数年後また別れる。
人生はこれの繰り返しでできているのでなないだろうか。
その時の自分に利益がある人たちと過ごす。薄情な考えかもしれないが、現実はきっとそうだ。
悪いことだとは思わない。無意識のうちに人は、そのように過ごしているのだ。
現に高校に入学した頃に連絡を取っていた中学の友達とは、1年生の夏頃には誰1人として連絡をとることは無くなっていた。
初めは慣れない環境で、毎日のように連絡を取り合い、中学の思い出話に花を咲かせていた。
でも、気付いたら僕の携帯のトーク画面は高校の友達で埋め尽くされていたんだ。
だから、今日僕も一生の別れを告げる。これから先の人生で会うことのないみんなへと。
「・・・やくん。佐藤真也くん!」
「あ、はい!」
すっかり自分の番だったことを忘れてしまっていた。慌てて教卓の前に向かう。
「落ち着いて、大丈夫だから」
「はい」
「真也くん。あなたは大変よく頑張りました。勉強や部活動。どれをとってもあなたはみんなのお手本のような存在です。完璧と言いたいところですが・・・」
耳を貸しなさいと手でジェスチャーをしている先生。一歩先生に近づき、耳を傾ける。
「まだ伝えていない想いは、最後に伝えてみたら?」
衝撃的な言葉に一瞬で身を引いてしまう。
どうして、先生が僕の想いに気がついているのだろうか。
「せ、先生どうして・・・」
「これでも私は、あなたの担任を3年間務めてきましたから。頑張れ!そして、卒業おめでとう!」
「先生、僕もあなたが3年間担任でよかったです。それと・・・」
今度は僕の方から歩み寄り先生の耳元でそっと囁く。
「先生も彼氏さんとお幸せに」
驚いた顔をした先生だったが、すぐに余裕の表情に顔を変える。18歳の僕とは違う。さすが、大人って感じだ。
「いないわよ。生意気ね・・・」
不敵に笑う先生の顔に不覚にもドキッとしてしまった。
先生の白く小さな手から卒業証書を受け取る。
高校3年分の重みは意外にも軽かった。
自分の席に戻る途中、窓の外に見えた桜吹雪は少しだけ寂しく見えてしまった。