美也の答えは決まっている。
「……はい。私が取り返さないといけないんです。いけないってわかってる……けど……」
「けど?」
決まっている、が、口で言うのと行動に移すことは別問題だった。
美也の声が震えだす。
「こ、怖くなるんです……奏さんを前にすると……私、奏さんのことが怖かったんです。今までは榊さんの前でも虚勢張ってたみたいで……本当の私は、弱虫で怖がりで、ちっとも勇気はないし、強気でもなかったんです……」
榊には、色んな話をしてきた。
こんなことがあった、こうしてやろうかと思った。と、実践など出来ない仕返しの方法まで愚痴っていた。
けれど本当は、そんなこと決行する勇気はなかったのだ。
「榊さんがずっといてくれたのに……私、なんも成長してない……」
その存在が支えだった。不思議な人で、謎の多い人ではあるけれど、温かい人だった。
美也が顔をあげられないでいると、榊はそっと美也の頭を撫でた。
「そう早く成長などしてくれるな。美也には嬉しい言葉ではないだろうが、俺はお前を見ているのが楽しい。……だが、美也は今のままでは嫌なんだよな」
「……愛村の家は、早く出たいです……」
進学して一人暮らしを始めるとか、どんな形でもいい。愛村の人とは、縁遠く生きたかった。
成長しない選択肢は、美也が望むものではない。
「私、もっと強くなりたい……」
「美也……」
強く、強く。奏にも立ち向かえるくらいに。
榊の、美也の頭を撫でる手が止まった。
「……これは誰だったかの受け売りだが、強い人間は、優しい人間だと言っていた」
「……優しい?」
美也が、そっと顔をあげる。
「そう、優しい人間が、強い人間だということらしい。その言葉を聞いて随分経つが……俺も人を見ていて、そうだなと思うことがあるよ」
「………」
美也は、榊に向けた目を何度も瞬かせる。
そんなことはないと思う。それが美也の感想だった。
強い人というのは、心が強くて、どんなことがあっても傷つかなくて、むしろ立ち向かっていってしまうような人だ。
それでいて弱い者には優しく、護ることも出来てしまうような人。
そんな人に、なりたいと思っていた。なれると思っていた。