ミルク入れてこいとこそ言われていない、と反論したかったが、そんなことに意味はない。
それより今は――
「うん? 何持ってるのよ」
「!」
やばい、見つかった!
ちょうど榊にもらった鏡を手にしたところだったので、すぐに手放して落とすわけにもいかず、後ろ手に隠してしまった。
それを見られてしまった。
奏はずかずか部屋に入ってくる。
美也は一歩一歩後ずさり、ついには壁にぶつかってしまった。
「見せなさいよ」
「いや、これは……」
「いいから!」
普段美也は心の中で反発的なことを考えても、態度や口に出したことはなかった。
そんな美也が渋った様子に、奏は腹を立てたようだ。
無理やり美也の腕を掴んで、大事にかばっていた鏡を取り上げてしまった。
「綺麗な鏡じゃない。どうしたのよ、これ」
「その……友達からもらって……あの、大事なものなんです、だから――」
「それは大変ね。じゃああたしがもらってあげる」
「―――」
(は? 今、なんて言った、こいつ……)
奏は、美也から取り上げた綺麗な意匠の鏡の自分を映して上機嫌そうにしている。
「だってこんないいものあんたが持ってても宝の持ち腐れでしょ? あたしが使ってあげるから感謝しなさい」
感謝しなさい、とはどういう意味か。
愛村の家の自分勝手にはずいぶん付き合ってきたが、ここまで怒りを抱いたのは初めてだ。
「か――」
返してください。そう言わなくちゃ。
だが、怒りで震えているからか、のどがひくついて言葉がでてこない。
美也が固まっている間に、奏は出て行ってしまった。
閉まったドアを見て、美也の足から力が抜けでへたりこむ。
力ずくで取り返すどころか、「返して」の一言も言えなかった。
普段頭の中ではたくさん言い返してやり返す方法を思い浮かべていたのに、現実になれば自分はこんなにも無力で愚かしいのか。
「うそ……っ」