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「美也」
帰宅するなり、仁王立ちの奏が玄関にいた。
「あ、ただいま帰りました……」
「あんた、最近怪しいことしてるよね?」
(あ、あやしいこと……?)
なんでそんなことを言われなければならないのか。そもそも怪しいことなんてしていないし――あ。
縁もゆかりもない名家である月御門邸を訪れたり、地元の駅から家の近くまでとんでも美形と一緒だったり、いつもはしない朝早くに家を出たり――
(それは確かに怪しいかもしれない!)
思い至って自分でツッコんでしまった。
「えと……どういう意味ですか……?」
「あんたがイケメンと一緒だったって、ご近所で言われてるの」
(やっぱり榊さんだった!)
「騙されてるんでしょ? 助けてあげるからあたしも会わせなさいよ」
(相っ変わらずだなあ、この人……)
にやつきながら言うその顔くらい隠せよと思う美也だ。イケメン目当てだと、わかりやすすぎる。
「ええと……あの方は両親が亡くなる前から知り合いの方なのですが……」
実際に美也の記憶にある榊は事故の後からだけど、榊は美也を生まれたときから知っていて、美也の両親は母が龍神の子孫で、榊が龍神であるということも知って懇意にしていたらしい。
だからこそ榊は、あやかしの逆恨みで死なせてしまったことに罪悪感があるのだろう。
「え。いくつなの? そのイケメン」
「さ、さあ……年齢不詳で、両親の友人だった方ですけど……」
そして自称も他称もくそじじい、だ。
「ふうん。まあ年いっててもイケメンならいいわ。どこに住んでるの? 何か用事はある? あたしが代わりに行ってあげるわっ」
(奏さんが来たら榊さんが禁忌を犯しちゃうかもなんですけど!)
龍神の禁忌――それは人間を殺すことだ。