――榊は、美也よりも美也を知っていたのだ。

「美也嬢の両親の事故の原因はあやかしということだが……」

美也も訊きたかったことを、白桜が口にした。

榊は否定しなかった。

「そのあやかしは既に俺が処分している。美也の母は強い霊感があり、陰陽師や退鬼師ではなかったが、程度の低いものなら祓うこともできた。その能力ゆえあやかしに恨まれ、人間からの見方としては事故という形で……亡くなってしまったんだ。俺が霊力を封じる前の美也も、あやかしの姿は見えていた」

「美也嬢、憶えているか?」

白桜の問いかけに、美也は首を横に振る。

「い、いえ……お母さんたちが亡くなったのって私が三歳のときですから、さすがに……」

美也は自分に霊感があるなど考えたこともなかった。

榊の存在を人間だと疑っていなかったのも、普通の人には見えないものが見える体質だと思っていなかったからだ。

でも、そうだったのか。母には龍神の子孫らしい力があって、自分もそれを受け継いでいたらしい。

たとえばそれがもうなくなっていたとしても、美也の過去を知る榊から知らされると嬉しいと思う気持ちがあった。

色んな情報が一気に示されて、哀しい気持ち、苦しい気持ち、驚きの気持ち……ないまぜになっているが、榊に対しての『嬉しい』は素直に出てきた。

「解除する気はあるか?」

「もちろんある。だが、親戚の家にいる状態の美也に霊力を戻すつもりはない。ただでさえ苦痛の環境にいる美也を、これ以上大変な目に遭わせたくない」

「そういうことか……ならばなぜ、お前の使いが百合姫を頼ってくる?」

白桜が真っすぐに榊を見ながら問う。そういえば、美也がここにいることは、榊の知っていることではなかったらしい。

「それは……」

「言いにくいことか?」

再度白桜に問われて、榊は苦々しい顔で言った。

「……俺に美也を娶(めと)れと、色んなところから言われているのに俺が行動を起こさないから業を煮やしたんだろう」

その返事は、美也には意味がわからなかったので軽く首を傾げた。

白桜は何度か瞬く。

「言われているのか?」

「……天界の龍神の中でも今昔(こんじゃく)通して最高神の子孫は、美也だけになってしまった。彼の方が天界で婚姻する気がない以上、天界の連中はどうにかして血筋を途絶えさせたくないのだろう」