部屋を出るとき美也を見てきた奏は、勝ち誇ったような顔をしていた。

自分の親からの信頼も一部失っているのに、何も気づかずに、自分を優位に置いていないと気がすまないのか。

(なんかもう……哀れに思えてきた、この人……)

奏に対し恐怖はあるが、いだく感情が憎しみや妬みにならないのは、美也を大事な存在だと、その心を庇護してくれた存在がいるからだ。

心までは奏の傀儡(かいらい)にはならなかった。

(でも……)

自分の部屋の前まで来て、右手を持ち上げて見る。

先ほどの……光と、消えた水はなんだったんだ? 

泥棒の仕業かと思っていたが、あんな手品みたいなこと、遠隔で出来るわけがない。周りにそんな仕掛けもなかった。

「おい、美也」

考えにふけっていると、階段をあがってきたおじに呼ばれた。

はっとして、おじを見返す。

「はい……」

「お前の部屋からとられたものはないんだよな?」

「は、はい……ご覧になってください」

開けっ放しの自室のドアの前にいたので、体をずらしておじに自分の部屋を見せる。

「うわ」

それがおじの第一声だった。

それから、何か考えるような間を空けて、美也を見てきた。

「自分でやったのか?」

「い、いえ……先ほど、私の部屋にないかと探されたんです……」

奏さんが。

名前までは言わなかった。おじが本当に、これをやったのが美也だと思っているかどうかはわからないけれど、美也のこの返事ではこれをやったのは奏だと言っているのと変わらない。

「めんどくせえ……」

おじはこういう人だ。とかく、面倒くさがり屋。

美也がいることも、面倒くさいくらいにしか感じていないのだろう。

「片付けやれよ。あと、うるさくするな」

「は、はい……」

とりあえず怒られなかっただけマシか……と、美也はほっと息をついた。詮索されることもなくてよかった。

「奏、ほかにとられたものなんてなかったぞ。自分でどっかやったんじゃないか?」

少し離れた場所から、おじの声がした。

「そ、そんなはず……っ」