「………」
う。今のはちょっと反撃してやろうと思ったのに、ダメージを受けたのは美也の方だった……。
そして美形な榊の極上笑顔はもはや罪かと思うくらい破壊力がある。
「話し合い……も、出来るかわかりませんけど……出来る限りのことはしてみます。このまま逃げたくないって思いは、確かにあるんです」
「ああ」
「だから……」
「うん?」
ばっと、勢いよく美也は榊を見た。
「か、鏡を取り返すまで、どうすれば榊さんと逢えますかっ?」
切羽詰まっているのはそこだった。
榊とは約束をして逢うようなことはなかったから、必ず逢えるのはあの鏡の手品を使ってだった。
榊は驚いたように瞬いた。それから、美也の心配がわかったのかゆっくりうなずいた。
「……ああ、そうだな。鏡がないといつでも逢えるというわけではなかったな……」
こくんとうなずく美也。
「榊さん不足は私の死に至る理由になってしまいますので、重要な問題なんです」
「それは、俺不足にさせられないな。そうだな……学校の帰りにでも、時間を決めて約束するか?」
「いいんですかっ?」
「もちろん。今までは美也は早く帰宅しないといけないと聞いていたから、提案しなかったが……」
「そうだ! 私早く帰らないといけないんだった……」
榊の嬉しい提案にも、現実に思い至ってずーんと落ち込む美也。
愛村家の家事の一切をやらされているので、すぐに帰って洗濯物を取り込んで仕舞って、お風呂と夕飯の準備をしなければいけないのだ。
夕飯も美也は愛村の三人と一緒にとることはなく、みんなの食事が終わってから自分の部屋に一人分だけ持っていける。
美也としては一緒に食卓を囲むよりは気楽なので、それに文句はない。
まあ、美也が家事に走り回っているときにのーんびり過ごしている三人を見ていると、いつか私が出て行ったら痛い目見るよ、と心の中では思っていた。
榊が、「そうだな……」と再び考える。
「……朝、少し早く出てくることは出来るか?」
「朝ですか? ……五分くらいなら早めに出ることは出来ると思いますけど……」
朝食の支度も洗濯物を洗って干すことも美也に押し付けられているが、少し早めに起きて支度をすれば、わずかながら時間は作れるだろう。
「毎朝でなくても、美也が時間を作れる日、美也のことを待っている。それではどうだろう?」