地方から戻り翠鈴と再会し彼女の部屋で一夜を過ごした次の日の朝、劉弦を迎えたのは、家臣たちからの奇妙な祝福だった。

「陛下、私ども家臣一同は全会一致で翠鈴妃さまを皇后さまへ推挙いまします」

 玉座の間にて宮廷のすべての家臣を背にした黄福律が平伏する。
 劉弦は眉を寄せた。

「黄福律、そなたなにを考えているのだ?」

 なにを企んでいるのだ?と聞きそうになるのを堪えて、劉弦は彼に問いかけた。
 華夢と福律のやり取りについては、昨夜翠鈴から聞いている。華夢を皇后にすることを彼が諦めていないのは確かだ。
 次にどう出るか、注視しなくてはと思っていた矢先の出来事だった。満面の笑みを浮かべる福律の考えが読めない。

「私は、結論を急がないと言ったはずだ」

 黄福律が面を上げた。

「娘から聞いたのでございます。翠鈴妃さまがいかに寛容な心の持ち主で、皇后さまに相応しい方なのかということを。もとより私は、国の平穏のみを望む身にござりますれば、翠鈴妃さまに立后いただくのが国のためと判断いたしました。ほかの者にもその旨伝えましてこのような結論と相成りました」

 翠鈴の立后に反対していたのは福律と彼と親しい家臣たち。福律さえ賛成すれば否とは言わないだろう。

「つきましては、国の平穏と安定のため、翠鈴妃さまの立后の儀を急ぎ執り行いましょう。民を早く安心させなくては」

 翠鈴の立后に賛成するだけでなく、急ぎことを進めようとする福律は、明らかになにかを企んでいる。このまま、彼の思惑に乗せられるわけにいかないと、劉弦は首を横に振る。

「翠鈴妃は世継ぎの出産を控えている。立后は生まれてからでも……」

「ですが陛下、後宮の妃たちは翠鈴妃さまの立后を心待ちにしておる様子。民にとっても皇后さまの立后は、喜ぶべきことにございます。急ぐにこしたことはございません」

 福律の言葉に同調するように、他の家臣たちが「陛下、おめでとうございます!」と声をあげはじめた。

「翠鈴妃さまの立后を心よりお祝い申し上げます!」

 福律の思惑はともかく他の家臣たちは本心からの言葉だ。
 後宮の妃たち、民のためだと言われたらそれ以上拒むこともできなくて、劉弦は仕方なく頷いた。