国中の領地を治める部族長から献上された品々が玉座の間に並べられている。役人がそれらの目録を読み上げるのを玉座に座り劉弦は聞いている。
 どれも一般の民には手が届かない高級品ばかりだが、神である劉弦には必要ない。だからこれらはすべて金子に換えて、貧しい者たちの施しにするのが慣例だ。
 だから正直なところ献上品の内容には興味がない。ただ皇帝の役目として聞いているだけだった。だが役人が読み上げる目録の中の『茶』と言う言葉に、引っ掛かりを覚えて、劉弦は眉を上げた。

「茶……か」

 さまざまな植物を乾燥させて作る茶は、嗜好品というよりは薬の役割を果たすことがほとんどで、原料の種類や組み合わせによって人の体調を整える効果がある。
 そのことを思い出し、劉弦は役人に問いかけた。

「そなた、その茶は、胃の腑の調子を整えてすっきりさせると言ったな」

「はい。効果は抜群にございます」

「その……。それは身ごもっている者が飲んでもよいものか?」

 劉弦からの質問に、役人は不意を突かれたように瞬きをする。だが、すぐに笑顔になった。

「もちろんにございます! こちらの茶はいい効果こそあれ、悪い効果はございません。懐妊初期の胃の腑の不快感を取り除いてくれるので、産地では懐妊の祝いとしても喜ばれる品です。ぜひご寵姫さまに差し上げてくださいませ!」

 嬉しそうに声をあげる。劉弦はおもはゆい気持ちで、頷いた。
 今彼が言った通り、劉弦が献上品の茶に興味を持ったのは、翠鈴のことが頭に浮かんだからだ。
 彼女は、ここのところ体調が悪く食欲がないと聞いている。
 懐妊中、とくにはじめの頃には珍しくないことだと周りは言う。だがそれでも心配だった。

「ご寵姫さまはなんと申しましても世継ぎを身ごもられておられるのですから、陛下がご心配されるのも無理はありません」

 役人の言葉に劉弦は一応頷く。だが本当のところ、世継ぎが心配というよりは翠鈴自身を心配しているという方が正確だった。自分の子が彼女のお腹にできたということを、まだはっきりと実感できていないのが、正直なところだからだ。
 だかとにかく彼女を愛おしいと想うのは紛れもない事実なのだ。彼女の不調をなんとかしてやれるなら、なにをしても構わないという気分だった。

「ご寵姫さまのお好きな果物の砂糖漬けを浮かべてもよろしいですよ。陛下の深い愛情に、ご寵姫さまが元気になられることをお祈り申し上げます」

 役人が言って目録を閉じ、下がってく。
 その言葉をこそばゆく感じながら、劉弦は彼を見送った。