広大な国土を誇る水凱国(すいがいこく)は豊かな水源に恵まれた国である。龍神が皇帝として治めるこの国は、かつては嵐が止まぬ荒れた土地だった。
 困り果てた国を治める百の部族の長たちは、天界の龍神へ会いに行った。

『龍神さま、地上へ降りてこの国を治めてくださいませ。さすれば、私たちの娘、百人をあなたさまの妃として差し出します』

 龍神はその願いをすぐには聞き入れなかった。

『神は地上に降りられぬ。人の持つ欲、邪な心、汚いものが、我の身体を蝕む。やがては邪神となるだろう』

 ひとりの長が進み出で、龍神に進言した。

『我が部族には人を癒す『翡翠の手』を持つ娘がおります。その者をあなたさまの『宿命の妃』とし、地上の汚れたものから、お守りすることをお約束いたします』

 龍神はその願いを聞き入れて、地上に降り皇帝となった。
 嵐は止み、水凱国に平穏が訪れた。

 ——それから三千年が経った。