あれは、呪結式のあと。

東雲家へ向かうため、白無垢姿から着物蔵で見つけた桜色の着物に着替えたときのこと。


『お待たせいたしました、東雲様』


歩み寄ってきた和葉を見て、玻玖がつぶやいたのだ。


『…瞳子?』


――と。


あのときは、とくに気にもとめなかった和葉。

しかし、二度も名前を聞くとなると、ただの偶然ではないのかもしれない。


「…瞳子、…待ってくれ……」


――また。


しかも驚いたことに、玻玖はそうつぶやきながら涙を流していた。

狐の面から流れる一筋の涙は、和葉の膝の着物を濡らす。


「……ん…。ああ…、いつの間にか眠っていたのか…」


すると、玻玖が目を覚ました。

そして、自分の頬が濡れていることに気がつく。


「涙…?俺はなにか、うなされてでもしていたか?」