「……何か、あったの」

「何も、」

「嘘つけ、」



 ちゃんと言わなきゃ駄目だと俺に言ったのはサツキだろ。そう言い返そうとサツキの方を向けば彼は何故だか、ぷいと顔を背けた。



「……ちょっと今、こっち見ないでほしい」

「は?」



 言っている意味が分からなくて、サツキの顔を覗き込んだ。刹那、きらりと光が反射した。



「……サツキ」

「あー、もう、見ないでって言った、」



 じゃんか、という言葉は嗚咽に紛れて消えた。ぱた、とサツキの上履きの上に、染みができた。

 小さな水滴は、あとからあとから降ってきて、どんどん広がっていく。必死で押し殺した切れ切れの嗚咽が、その端正な唇から零れて落ちていく。



「リキ……たす、けて……」



 サツキは、俺の目の前で、小さく、小さく泣いていた。俺は、ただ、息を殺していることしか出来なかった。