それからサツキは時々学校へ来るようになった。サツキは自己紹介の時に「両親の仕事の関係で学校には少ししか来られません」と言っていた。病気だということは何故だか誰にも話していないようだった。

 自分だけが知っているサツキの秘密。相変わらず友達と呼べるような人はいなかったけれど、その事実が俺にとってサツキとの絆のようなものだったことは確かだった。

 今まで俺の周りには、俺と同じようなものの見方をする人はいなかった。けれどその鳶茶色(とびちゃいろ)の綺麗な瞳には、俺と同じ景色が見えているようなそんな気がした。波長が同じ、とでもいうのだろうか。

 とにかく、俺はサツキの傍に居ることが心地よくて、だから、サツキが学校に来たときはよく二人で屋上へ続く階段の踊り場でくだらない話をした。



「ねぇ、孤独ってどういうことを言うんだと思う?」



 突然、サツキは誰ともなしにその端正な唇からそんな言葉を落とした。思わず辺りを見回したけれど、もちろん、ここにいるのは俺たちだけだった。



「ひとりぼっちってことじゃないの」

「ひとりぼっちって?」

「……え、誰も、いないってこと?」

「誰もいないって?」



 まるで禅問答みたいに繰り返される問いに、何と答えればいいのかわからなくて、ぐっと黙り込んだ。俯き加減で瞼を伏せた俺に、君はからからと笑って眉を下げた。



「ごめんごめん、困らせちゃったね」



 困ってるのは俺なのにどうしてそんなに困った顔をするんだ。



「いや別に……困ってない」

「またまた、リキはすぐそうやって誤魔化す」



 駄目だよ、ちゃんと言ってあげないと。その言葉を聞くのはもう何度目だろう。でも、今日のその台詞には少しだけ違和感があった。その違和感に、そっとサツキを窺えば、君は「何?」と口角を上げて俺の方を見た。



「サツキ」



 名を呼んだ。一瞬の沈黙が俺たちの間を通り抜けた。

 サツキの眉は下がったままだった。