「私じゃ駄目だったの……? ねぇ、リキ。私は、ちゃんと、貴方に時間をかけてきたわよね?」
「ッ、おかあ、さ」
「全部無駄だったってこと?」
突然甲高い声が響いた。壊れたように笑いだした母親が怖くなって逃げだした。息を吸っても吸っても苦しくて、本当に呼吸の仕方を忘れてしまったのかもしれないと思った。それほどに、目の前で笑う母親が恐ろしかった。
バタン、と自分の部屋の扉を閉めて布団に潜り込んだ。震えが止まらなかった。
次の日、母親だけがこの家から消えていた。その事実が俺に知らしめたのは、彼女はずっと父親だけを見つめていたということだった。父親に傍に居て欲しいが為に俺を「いい子」に育て上げた。
ねぇ、じゃあさ。——……用済みになった「いい子」の俺は何処へ消えたらいいの?