「ねぇ、あの日の約束、憶えてる?」

「……忘れた」



 嘘だよ。憶えてるよ、全部。

 だって、俺の生きる意味は——……サツキ、君なんだから。



「ぼくさ、あのとき……死にたかったんだよね。病気に殺されるのが嫌で嫌で仕方なかった」

「……ああ」



 俺もだよ、サツキ。ずっと死にたかった。あの頃は全部が要らなかった。でも今はそれすら、尊くて美しいことだと知っている。



「でもさ、最近君ともう一度出逢って思うんだ」



 声が滲んだ、と思った刹那、ぼろ、と涙がサツキの頬を転がった。後を追うように、何粒も転がった。性懲りもなく、美しいなと思った。

 サツキは宝石みたいな雫を零しながら、涙でこもった声で小さく呟いた。



「生きたいんだ。どうしても、何を犠牲にしても、生きたいって……そう思うんだ」



 ああ、神様はなんて残酷なんだろう。

 死にたかった(休みたかった)あの時、神様はサイコロを振って、サツキを「生きる未来」に進めた。抗いたくてもただ時間は過ぎていった。

 なのに——……なのに。

 今生きることを望んだ君は、確かに死に近づいている。神様はあと何回、サツキの(サイコロ)を振るのだろうか。