「は、何、言って」



 冗談にしては笑えなかった。口の中がカラカラに乾燥して、ごくり、と喉だけを鳴らした。



「リキに殺されるなら病気に殺されるより全然いいよ」



 何で、そんな風に笑うんだ。無理するくらいなら、笑うなよ。まだ眼のふちが赤くて、鼻声で、時々思い出したように声をつまらせているくせに



「……約束、してよ。嘘でもいいから」



 サツキの声が震えているのは泣いたからか、それとも。



「嘘でもいいって……それ約束する意味あるの」

「あるよ。だって、そうしたら病気で死ななくて済むって思って生きていける」



 ぎゅっとこぶしを握った。感情がぐちゃぐちゃだった。呼吸の仕方を思い出すみたいに、息を吸って、息を吐いた。



「わかった……約束、するよ……、だから勝手に死なないで」

「わぁ、本当に?」



 ——……ありがとう、リキ。



 そう言って君は笑った。その時の笑顔が美しすぎて、また俺の心臓はドクンと大きく脈を打った。









 それからすぐに、サツキはまた学校に来られなくなった。何故だか連絡もつかなくなった。集中治療室にでもいるのだろうか、命の危険があるんだろうか、そんなことを考えたりもした。そんな日は決まって、眠れなくなった。

 サツキとの連絡が途絶えた俺がサツキに逢う為にできることはただ一つだった。


「相川、本当にいいのか?」

「何を言われても変えるつもりはないです」



 白紙のまま提出しようとしていた進路希望調査に片っ端から医学部の名前を書いた。



「今からだとなかなか厳しい戦いになると思うが」

「知ってます」

「なら、いい」



 誰に止められようとも進路を変えるつもりはなかった。だけど、独りぼっちの俺に止めてくれる人なんているはずもなく、担任ですら見放したようにそう言った。でも今はそれが幸せだと思った。

 不思議だった。少し前までは不幸だと感じていたことが、幸せに姿を変えるだなんて。